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成人スティル病:Adult onset Still disease (AOSD)

はじめに

 不明熱の患者として紹介されてくる患者が多い。診断基準などを参考にするが、大基準に含まれるような関節症状、皮疹、白血球上昇などがはっきりしないと診断は難しいと思う。皮疹は一般に一過性で、高熱が出現したときにはじめて気づかれることもある。診察時には症状や所見が無くても、後で顕在化することがあるので、注意深いフォローが必要だ。多くの疾患を除外する必要もあり、多角的な思考プロセスが要求される。基本を押さえておこうと思う。

成人スティル病のポイントのまとめ

  • 発症年齢は、本邦集計で20歳前後をピークに年齢とともに罹患者数は減少し、6割は16~35歳に分布するが、高齢発症もある。女性が男性の2倍である。1)
  • 日本での全国調査では年齢中央値は46歳で72%が女性であった.。2)
  • 近年、高齢者での発症例も少なくないことが明らかとなっており、漿膜炎の合併頻度が高いなど、若年者と異なる臨床症状を呈することが報告されている。2)
  • 病因は未定であり、ウイルスを含む様々な病原体との関連を述べた症例報告が多数あるが、有力候補はない。特定のHLAアレルとの相関も報告はあるが、確定的なものがない。1) →インターロイキンー18(interleukin-18;IL-18)の遺伝子多型との相関。3)
  • 自己抗体は検出されないが、ステロイド治療が著効する炎症性疾患であり、感染症などを契機とした自然免疫系の異常な活性化状態の持続が本態であると推定され、多遺伝子性の自己炎症性疾患に分類される。1)
  • 成人発症スチル病の主たる症状は、発熱、関節痛、皮疹である。1) →診断基準参照
  • 関節痛は95%以上の高頻度で認めることから、関節痛のないAOSDはやや考えづらい。8)
  • 発熱の型式はスパイク熱(spike fever)とよばれ、39℃以上の高熱が1日に1~2回急激に出現して短時間でおさまり、高熱と高熱の間は37℃程度まで解熱する弛張熱の形をとることが多い。3)
  • 37度以上の発熱は全例に認められるものの39℃以上の発熱は必須ではない。8)
  • サーモンピンク疹といわれる皮疹の“出没”が、スチル病の有力な証拠となる。膨疹又は隆起のない径数mmの桃色の皮疹の集簇である。掻痒感は一般にない。発熱時に出現し、解熱時に消退する傾向があるが、無熱時にもみられても良い。1)
  • よく知られた発熱に一致して消長する皮疹(定型疹)は、掻痒のない紅斑で、消退後は色素沈着を残さない。一方本症では発熱に一致せず下熱後も持続性に出現する皮疹(非定型疹)も知られており、「持続性掻痒性丘疹局面」などと呼ばれている。4)
  • 皮膚筋炎様皮疹の報告もある。筋症状や間質性肺炎が明らかなら皮膚筋炎の診断に迷わないが、どちらも書く場合はamyopathic dermatomyositisとAOSDの鑑別は難しくなる。皮膚筋炎特有の爪周囲後半や毛細血管異常、AOSDの定型疹の有無などにより総合的に判断する。8)
  • 手指の小関節よりも手・膝・足関節などの大関節の疾痛や腫脹を伴うことが多い。2)
  • 咽頭痛、リンパ節腫大がみられる。肝脾腫は高頻度にみられるが、遷延したウイルス感染症、悪性リンパ腫にもみられる非特異的な所見である。1)
  • 咽頭痛の頻度は多いが、感冒などと区別は困難である。2)
  • 発症から1か月未満の早期については、ウイルス感染症が最も重要なmimickerになる。8)
  • 頸部痛や肩こり、腹部膨満感として自覚し、医療機関受診後にリンパ節腫脹・肝脾腫と診断されることも多い。Epstein-Barr(EB)ウイルスやサイトメガロウイルスなどのウイルス感染症、悪性リンパ腫などが鑑別となるため、これらのウイルス抗体や可溶性IL-2受容体の測定、画像検査を行い、悪性リンパ腫が否定できないときにはリンパ節生検を行う。2)
  • 不明熱を主訴とする患者において重要な鑑別疾患の1つである。感染症・悪性腫瘍・リウマチ性疾患の除外診断が重要であり、リンパ節生検・皮膚生検・骨髄検査などを要する場合も多い。2)
  • 文献6はAOSDと紛らわしいプレゼンテーションを呈した溶連菌感染後反応性関節炎(post-streptococcal reactive arthritis:PSReA)の症例が紹介されている。除外診断が重要であることの教訓になる。PSReAはリウマチ熱と異なり、サリチル酸に反応が乏しい、移動性のない、成人に起こる関節炎。ASOが高力価の場合には、溶連菌への暴露と生体が反応をしていることをイメージするとよいようだ。 →咽頭炎後に遷延する不明熱ではASOもチェック。
  • 診断には山口基準が世界的に用いられている。2) →下段へ
  • 検査所見としては、白血球の著明な上昇は特徴的である。CRP上昇、血沈亢進、肝機能異常及びLDH上昇、血清フェリチン著増、血小板数の増多などもみられる。1) →主に好中球の増多(≧80%)、フェリチン著増(正常上限の5倍以上)は参考値。著明な高値でなければ特異的な指標にはなりにくい。診断基準にも含まれていない。
  • フェリチンは初期には高値にならない場合もあり、経時的に測定する必要がある。AOSDにおけるフェリチン値はダイナミックに変動し、1日で数千の変動をみることもある。8)
  • AOSD患者49名とコントロール群120名のcase control studyでは血清フェリチン>基準値の場合には感度67.3%、特異度35.8%、血清フェリチン>基準値の5倍の場合には感度40.8%、特異度80.0%と報告されており、少なくともフェリチンのみでのRule-in/Rule outは困難である。8) →基準値の5倍以上を認めても陽性尤度比は2.04である。
  • 一般に、フェリチンが3000 ng/dl (→ng/ml?)を超える場合は、AOSDのほかに、マクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome;MAS)、血球貪食症候群、ヘモクロマトーシスなどが鑑別に上がる。5)
  • フェリチン値の著明な上昇はAOSDか血球貪食症候群に鑑別が絞られ、血球貪食症候群では2系統以上の血球減少が特徴であるため、フェリチン著増と白血球増加の組み合わせはAOSD特異的な所見と言ってよい。8)
  • (AOSDにHPSを合併する場合)HPSを起こすすべての疾患が鑑別対象となる。若年ではEBウイルスなどのウイルス疾患、高齢者では悪性リンパ腫などの悪性腫瘍に特に留意し、除外診断を行う。8)
  • 好中球が低い状況では、それだけで(スコアが<30点以下となり)、AOSDを積極的に診断できない。AOSDではフェリチンよりも白血球数が大事。5) →そういうスコアリングシステム7)がある。ちなみに次に大事なのは滑膜炎。
  • 血清IL-18は成人Still病における診断価値が高いことが知られているが、保険は適用されない。4) →別項目に分けて勉強
  • 画像検査としても特異的な検査はなく、診断において特に有力といえるものはない。FDG-PET/CT検査では骨髄、リンパ節、脾臓へのFDGの集積を認め、ガリウムシンチグラフィでもガリウムの骨髄への集積を認める。3)
  • 著明な血清フェリチン値の増加を示す場合にはマクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome;MAS)へ移行することがある。3)
  • 比較的長期(1か月以上)の経過で関節痛が主症状の場合には関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、結節性多発動脈炎、顕微鏡的多発血管炎、反応性関節炎、リウマチ性多発筋痛症が鑑別対象となる。抗CCP抗体、リウマトイド因子、抗核抗体、抗ARS抗体(抗Jo-1抗体を含む)の測定を行う。8)
  • 感染症や悪性腫瘍の除外や臓器病変の合併のため、全身の造影CT、腹部超音波検査,漿膜炎合併評価のため経胸壁心臓超音波検査、上下部内視鏡検査や婦人科悪性腫瘍の検索など年齢に応じた悪性腫瘍のスクリーニングなどを行う。ガリウム(Ga)シンチグラフィやFDG-PET検査を行うこともある.2) →ASDに特異的な臨床所見がないことから,何よりまず他の疾患を除外診断することが重要である。感染症としては、敗血症などの細菌感染症、ウイルス感染症、リケッチア感染症を鑑別する。悪性腫瘍の鑑別としては特に悪性リンパ腫が重要である。悪性リンパ腫では高フェリチン血症やMASの合併などASDと共通の症状が多くみられる。膠原病の鑑別としては、血管炎症候群、関節リウマチなどが重要である。2)
  • IVL(血管内リンパ腫)のような悪性リンパ腫は、しばしば誤診される疾患です。他には感染性心内膜炎や多発動脈炎の誤診も問題になります。5)
  • 血管内リンパ腫のようにリンパ節腫脹が見られず、急速進行性かつ予後不良な病態もあるので、リンパ節腫脹を認めなくても悪性リンパ腫を否定してはいけない。原疾患不明のHPSの場合はランダム皮膚生検も積極的に行う。8)
  • 多中心性キャッスルマン病(Multicentric Castleman’s Disease :MCD)はリンパ節腫脹、肝脾腫、抗γ‐グロブリン血症などの主症状に加えて、関節炎や皮疹、フェリチン上昇を合併することがある。AOSD診断の18カ月後にMCDと診断されたとする報告がある。8)
  • 血管炎、Sweet病やリンパ腫等が否定できない場合には皮膚生検を行う。AOSDの定型疹の病理所見としては真皮上層への多核球や単核球の軽度炎症細胞浸潤のみで診断的価値は乏しいとされる。2)
  • 非定型疹の組織像、特に表皮細胞の異常角化/アポトーシスは特徴的であり、後述のYamaguchiらの診断基準を満たさない症例においても成人Still病を強く示唆する所見として有用である可能性が指摘されている。それもあって、生検は非定型疹から行うことが望ましい。4) →定型疹の組織像は、真皮上層の血管周囲性の炎症細胞浸潤であり、特異的な所見ではない。
  • AOSDの10~20%にマクロファージ活性化症候群(macrophage activation syndrome:MAS)を伴い、致死的経過をたどることから、早期の病勢コントロールが重要である。2) →血球減少を伴いMASが疑われる場合には骨髄生検が必要。2)
  • ASDにおけるもう一つの重篤な合併症としてDICがあり、ASD患者の約6%に合併する。3)
  • 一般にステロイド治療に反応する良性疾患である。NSAIDsのみで寛解する例は少なく、ステロイドの中等量から大量(プレドニゾロン相当 1mg/kg/日、分割内服)が用いられるが、必要用量と期間は、症例ごとに異なるので一律のプロトコールは存在しない。1)
  • この疾患は通常の大量ステロイド(≒PSL 1mg/kg/day)では十分な治療効果が得られず、最大PSL 2mg/㎏/day程度の超大量ステロイドをしばしば必要とする。8)
  • ステロイドで効果不十分な場合や減量困難な場合には、ステロイドに加えて保険適用のあるトシリズマブ(抗IL-6受容体モノクローナル抗体)や、以前から使用されている免疫抑制薬(メトトレキサート、シクロスポリン)などを使用する。1)

Yamaguchiらの分類基準(1992年)

A:大項目 
1)39℃以上の発熱が1週間以上続く
2)関節症状が2週間以上続く
3)定型的な皮膚発疹
4)80%以上の好中球増加を伴う白血球増多(10000/mm3以上)
B:小項目 
1)咽頭痛
2)リンパ節腫脹あるいは脾腫
3)肝機能障害
4)リウマトイド因子陰性及び抗核抗体陰性
C:除外項目 
1)感染症(特に敗血症、伝染性単核球症)
2)悪性腫瘍(特に悪性リンパ腫)
3)膠原病(特に結節性多発動脈炎、悪性関節リウマチ)
※16歳未満の症例に対しても上記診断基準は適用される。
<診断のカテゴリー>
Definite:Aの2項目以上を満たし、かつAとBを合わせて5項目以上に該当し、かつCを除外したもの。
  • この条件での分類基準での感度は96.2%、特異度92.1%である。8)

 不明熱は奥が深い。臨床能力が試される。本当に「不明」なのか「実力不足」なのか。不明と聞くたびに、なんだか憂鬱な気分にもなったりもする。気を引き締めたい。(不定愁訴もそんな感じ。)

参考文献

  1. 難病情報センター. 成人スチル病(指定難病54). https://www.nanbyou.or.jp/entry/282
  2. 玉井博也, 金子祐子. 成人発症Still病. 診断と治療 111(8): 1079-1084, 2023.
  3. 吉見竜介. 成人スチル病の診断, 治療, 病態および療養上の注意. 難病と在宅ケア 29(7): 46-50, 2023.
  4. 梅林芳弘. 成人Still病を見極める. MB Derma (320): 193-200, 2022.
  5. 井村洋, 清田雅智. 成人スティル病以外の疾患である可能性はあるでしょうか?. ドクターズマガジン (165): 22-25, 2013.
  6. 井村洋, 清田雅智. 検査結果から成人スティル病以外の診断の仕方は?. ドクターズマガジン (169): 18-21, 2013.
  7. Crispín JC, Martínez-Baños D, Alcocer-Varela J. Adult-onset Still disease as the cause of fever of unknown origin. Medicine (Baltimore). 2005 Nov;84(6):331-337.
  8. 大曲貴夫, 狩野俊和, 忽那賢志, 國松淳和, 佐田竜一. Fever 発熱について我々が語るべき幾つかの事柄. 金原出版株式会社. 東京. 2015.

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