はじめに
糖尿病患者がインスリン治療に移行するタイミングを意識して治療を行わなければならない。Cペプチドなどの指標が参考になる。他にも様々な指標があるようだが、十分な検証がないため適用には注意が必要な点が指摘されている。
- (インスリン分泌能の評価方法は)日常診療で実施可能な空腹時採血や75g OGTTの結果を用いて、以下に述べるような簡便な指標が算出できる。ただし、血糖降下薬使用下で、これらの指標がどの程度正確にインスリン分泌能、インスリン抵抗性を評価し得るかに関しては必ずしも十分に検証されておらず、適用には注意を要する。1)
インスリン分泌能の評価について復習してみた。
インスリン分泌指数 (insulinogenic index)
- 糖負荷早期のインスリン分泌(初期分泌)を評価する方法。2)
- 75g OGTT で、負荷前から負荷後30 分にかけての血中インスリン増加量を、血糖値の増加量で除した値をインスリン分泌指数( insulinogenic index) といい、インスリン分泌能の指標となる。1)
- 糖尿病患者ではこの値が0.4 以下となり、境界型でも0.4 以下のものは糖尿病への進行率が高いとされている。1)
- 診断確定後の糖尿病患者では通常75g OGTT は行わない。また、薬物治療が必要な糖尿病患者ではインスリン分泌指数は極めて低値となるため、糖尿病患者におけるインスリン分泌能の経時的変化やインスリン療法の必要性の評価、インスリン依存状態であるかどうかの判断の目安としては適切でない。このような場合にはインスリン値よりもC ペプチド値を用いた評価の有用性が高い。1)
HOMA-β
- インスリン分泌能の評価にはHOMA-βが用いられる。正常値は40-60%であり、30%未満はインスリン分泌能の低下を示す。2)
Cペプチド値 (C-peptide immunoreactivity:CPR)
- Cペプチドは治療で投与されるインスリンには含まれておらず、インスリンと1:1のモル比で分泌されるため、CPRは治療で投与された外因性インスリンを反映せず、内因性インスリン分泌を表す。2)
- 空腹時血中C ペプチド値が0.6 ng/mL 未満、24時間尿中C ペプチド値が20μg/日以下であれば、インスリン依存状態の可能性が高い。Cペプチド値はあくまで目安であり、インスリン依存状態かどうかに関しては総合的に判断する必要がある。また、腎機能の低下に伴ってC ペプチドの排泄が遅延し、血中C ペプチドは上昇、尿中C ペプチドは低下するため、C ペプチド値を用いた内因性インスリン分泌能の評価は困難となる。1)
CPRインデックス (CPR index:CPI)
- CPR インデックスは、空腹時のC ペプチド値を血糖値で補正することで求められるインスリン分泌の指標であり、CPR インデックスが0.8~1.0 以下ではインスリン療法を要することが多いとの報告がなされている。1)
- 朝食後2時間の血清CPR値と血糖値で同様に計算した食後CPIが空腹時CPI・空腹時CPR・24時間尿CPR排泄量より強いインスリン治療予測因子になると報告がある。2)
- インスリン治療に移行する際に治療の遅れが生じることが報告されており、clinical inertia として問題視されている。3)
clinical inertiaも問題だが、糖尿病以外にもpremature escalationなどの問題もある気がする。いずれにせよ、高齢者では低血糖の出現にも十分に注意が必要だ。
参考文献
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. https://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
- 井町仁美, 村尾孝児. インスリン, 血中CPR, 24時間尿CPR排泄量, CPRインデックス. 日本臨牀 74(増刊号1): 384-387, 2016.
- 下野大. 特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬-糖尿病治療の新しい潮流 現場の疑問を解決-薬物治療編 Question 4 インスリン治療に移行するタイミングは?. medicina, 2022, 59.1: 96-97.
コメント