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頚動脈狭窄

はじめに

 エコーで偶然に内頚動脈の狭窄を発見することがある。内頚動脈狭窄を認めたときに、治療方法の選択肢の一つとなりうる内膜剥離術の効果と適応はどうなっていただろうか?ガイドラインを中心に復習しておく。

内頚動脈狭窄のまとめ

 まずは病院のHPなどで基本的な情報を集めてみる。治療方針については、ガイドライン通りというよりは、各施設の状況などで方針が変わるのは当然なので、個別の情報収集も大切と思う。

  • 頚動脈狭窄症が発見される契機としては、脳梗塞や一過性脳虚血発作の原因検索で発見される、無症状で脳ドックや健診を受け、偶発的に発見される、といった場合があります。5)
  • 治療方針を決める上で重要なのは、狭窄の度合い、すなわち狭窄率です。血管造影での狭窄率から30~49%を軽度、50%~69%を中等度、70%以上を高度とするものが一般的です。8)
  • 頚動脈エコーでは断面積を用いたarea stenosis がよく用いられる。頚動脈狭窄症のエビデンスの多くはNASCET 法での狭窄率を基準にしているが、頚動脈エコーにおいては狭窄部位の収縮期最大血流速度(peak systolic velocity:PSV)が150 cm/s を超える場合はNASCET 狭窄率50% 以上に、PSV 200 cm/s を超える場合はNASCET 狭窄率70% 以上の有意狭窄に相当する、との基準が使用されることが多い。4) →NASCET(ナセット)
  • 内科治療7)
    まずは高血圧、糖質代謝異常、脂質異常などの動脈硬化の危険因子となっている疾患の治療を行います。必要に応じて禁煙・禁酒などの生活指導を実施します。
    プラーク安定化(脂肪を飛散させにくくすること)を図るために高脂血症治療薬を内服していただくことがあります。
    必要に応じて抗血小板薬(血液をさらさらにしてプラーク表面に血栓が付着しにくくする薬剤)も内服します。
  • 外科治療7)
    狭窄率が高い場合には脳梗塞予防として外科治療を検討した方が良い場合があります。
    脳卒中治療ガイドライン(2021)によると、症候性の病変で狭窄率が70%以上の場合には上記内科治療に加えて外科治療を行うことは妥当とされています。
    無症候性の場合、高度狭窄であることに加えて脳卒中を来すリスクが高いと判断される病変に対しては外科的治療を行うことが妥当とされています。
  • 症候性頚動脈狭窄症では、狭窄率が50%を越えた場合、内服薬による内科的治療に加えて外科手術(頚動脈内膜剥離術:CEA)を行う方が、内科的治療のみの場合より脳梗塞再発予防効果が優れているとされています。また、無症候性頚動脈狭窄症でも、狭窄率が60%以上の場合、内服薬による内科的治療に加えて外科手術(頚動脈内膜剥離術)を行う方が、やはり脳梗塞予防効果が優れているとされています。6)
  • 治療法は、症状の有無と狭窄率および手術の危険性によって決まります。8)
    • 無症状で狭窄度が60%未満の場合、または症状があって狭窄度が50%未満の場合
      手術的治療はお勧めしません。上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただきます。
    • 無症状で狭窄度が60%以上の場合、または症状があって狭窄度が50%以上の場合
      上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、手術的治療をお勧めします。
    • 症状があって、狭窄度が50%以上だが、手術の危険性が高い場合
      上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、頸動脈ステント留置術をお勧めします。
    • 無症状で狭窄度が80%以上だが、手術の危険性が高い場合
      上記動脈硬化の治療を行い、抗血小板剤を内服していただいた上で、頸動脈ステント留置術をお勧めします。

無症候性頚部頚動脈狭窄・閉塞

 ガイドライン1)の重要そうなポイントについて抜き出してみる。。

  • 無症候性頚動脈狭窄は脳梗塞発症の原因となるため、一次予防として動脈硬化リスクファクターの管理が勧められる(推奨度A エビデンスレベル中)。1)
  • 軽度から中等度の無症候性頚動脈狭窄に対しては、頚動脈内膜剥離術(CEA)および頚動脈ステント留置術(CAS)などの血行再建術は行わないよう勧められる(推奨度E エビデンスレベル高)。1)
  • 高度の無症候性頚動脈狭窄では、抗血小板療法、降圧療法、スタチンによる脂質低下療法を含む最良の内科的治療による効果を十分に検討し、画像診断で脳卒中高リスクと判断した症例では、これに加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設においてCEA を考慮することは妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)。1)
  • 無症候性頚動脈閉塞に対するCEA やCAS または他の外科的血行再建術、ならびに無症候性椎骨動脈狭窄・閉塞に対する外科的血行再建術や経皮的血管形成術/ ステント留置術については、勧められない(推奨度D エビデンスレベル低)。1)
  • 50%以上の無症候性頚動脈狭窄を有する症例において、以前は同側脳卒中の発症率は年間1~3%、同側脳卒中または一過性脳虚血発作の発症率は年間3~5%であるとされていた。近年では内科治療の進歩・普及に伴い徐々に低下しており0.3%程度という報告もあるが、概ね0.5~2%程度と推察される。1)
  • 無症候性頚部頚動脈狭窄・閉塞症例の脳梗塞一次予防に有効な薬物のエビデンスは示されていないが、一般的な脳梗塞一次予防の治療として、禁煙・節酒、高血圧、糖代謝異常、脂質異常などの動脈効果リスクファクターの管理が勧められる。1)
  • 無症候性頚動脈狭窄症の狭窄度(50~99%)の違いにより5 年の同側脳卒中リスクが異なるかを評価したシステマティックレビューでは、同側脳卒中リスクは狭窄率と線形的に関連しており、70~99%狭窄例では、50~69 % 狭窄例に比べてオッズ比(OR) が2.1(95% 信頼区間〔CI〕1.7~2.5)、80~99%狭窄例では、50~79%狭窄例に比べてOR が2.5(95 % CI 1.8~3.5) と算出されており、中等度狭窄例では内科治療下での脳卒中リスクが低くCEA の効果を疑問視すると同時に、高度狭窄例ではCEA が未だ過小評価されていると論じられた。1)

UpToDateでも、狭窄の度合いで方針を変えることを推奨している。

  • 50%未満の狭窄: 頸動脈血行再建術を必要としない。
  • 50〜69%の狭窄:血行再建術を行わないことを提案(Grade 2C)。強化された内科治療のみで管理し、定期的に頸動脈超音波検査を受けるべき。
  • 70〜99%の狭窄:強化された内科治療のみ、または強化された内科治療と頸動脈血行再建術の併用のいずれかが適切。頸動脈血行再建術の潜在的な利益を得るためには、患者の生命予後が少なくとも5年以上あり、術前リスクの合計(脳卒中および死亡のリスク)が3%以下であるべき。患者の価値観や好みを取り入れた共同意思決定アプローチを推奨。患者は、強化された内科治療における脳卒中のリスクが比較的低く、頸動脈血行再建術の利益が限られていることを理解する必要がある。(3年間で1 回の脳卒中を予防するためのNNTは約 33。)

症候性頚動脈狭窄

 ガイドライン1)の重要そうなポイントは以下の通り。

  • 症候性頚動脈高度狭窄(70~99%狭窄、NASCET 法)では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設において頚動脈内膜剥離術(CEA)を行うことが勧められる(推奨度A エビデンスレベル高)。狭窄末梢が虚脱した高度狭窄(near occlusion)には、CEA を行うことを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル中)。1)
  • 症候性頚動脈中等度狭窄では、抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて、手術および周術期管理に熟達した術者と施設においてCEA を行うことが妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)。1)
  • 内頚動脈狭窄症において、血行再建術を考慮すべき高齢者に対しては、頚動脈ステント留置術よりもCEA を行うことが妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)。
  • 症候性頚動脈狭窄に対して症状発症後早期にCEA を行うことは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)。1)
  • 狭窄率50%以上すなわち中等度ないし高度の症候性頚動脈狭窄病変に対しては、内科的治療(抗血小板薬と脂質異常症改善薬を含む最良の内科的治療)+頚動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)のほうが、最良の内科的治療よりも脳卒中再発予防効果が優れている。特に70%以上の症候性頚動脈狭窄病変では、双方の治療効果に関する差はより明らかである。1)

UpToDateでも、狭窄の度合いで方針を変えることを推奨している。

  • 最近、症状が出現した70〜99%の頸動脈狭窄を有し、少なくとも2年以上の生命予後が見込まれる患者には、医療管理に加えてCEAによる血行再建術を推奨する(Grade 1A)。
  • 最近、症状が出現した50〜69%の中等度の頸動脈狭窄を有し、少なくとも3年以上の生命予後が見込まれる患者には、医療管理に加えてCEAによる頸動脈血行再建術を提案する(Grade 2A)。医療管理のみも適切な代替策であり、特に利益が確実でない状況(例:女性患者や血行再建術が2週間以上遅れる場合)では推奨される。
  • 30〜49%の頸動脈狭窄を有する患者に対しては、CEAまたはCASを行わないことを提案する(Grade 2B)。血行再建術の利益はない。
  • 症候性の同側内頸動脈のほぼ閉塞がある患者に対しては、臨床試験においてCEAの利益は認められていない。非常に高度な狭窄とほぼ閉塞を区別することは必ずしも容易ではなく、このような患者の管理は、専門家の指導のもとで個別に行うべき。
  • 完全閉塞の患者に対しては、血行再建術は選択肢にはならない。

 リスクの評価を行い、適切に恐れるべき病態だと思う。不用意に手術を勧めてしまうと、アウトカムにつながらない不安の元となる可能性もある。専門医との連携は必要だが、プライマリ・ケア医としてはしっかりと内科的な管理(禁煙なども含めて)とフォローアップを行うことがとても大切。

参考文献

  1. 日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2023.pdf
  2. Management of asymptomatic extracranial carotid atherosclerotic disease. UpToDate last updated: Jun 02, 2023.
  3. Management of symptomatic carotid atherosclerotic disease. UpToDate last updated: Jul 03, 2023.
  4. 佐藤徹. 特集 新時代を迎えた脳血管内治療-文献レビューで学ぶ進歩とトレンド Ⅲ 虚血性病変 頚動脈狭窄< 適応と成績編. Neurological Surgery 脳神経外科, 2023, 51.2: 295-304.
  5. 頚動脈狭窄症(鎖骨下動脈狭窄症を含めて).亀田総合病院 脳血管内治療科. https://www.kameda.com/pr/nivr/post_3.html
  6. 頚動脈狭窄症. 東京女子医科大学 脳神経外科. https://www.twmu.ac.jp/NIJ/column/CVA/cea.html
  7. 頚動脈狭窄症について. 日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院. https://www.nagoya2.jrc.or.jp/about/sinryoutopics/keidoumyakukyousakusyounituite/
  8. 頸動脈狭窄. 慶応義塾大学病院 医療・健康情報サイト. https://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000303.html

過去の勉強ノート

内頸動脈狭窄の手術適応(061229)

 エコーを施行する際に、偶然に内頸動脈の動脈硬化によって狭窄している患者をみることもある。内頸動脈狭窄を認めたときに、内膜剥離術という治療法があるのは知っているが、果たしてその効果と適応はどうなっているのだろうか?

 2002年のCMAJに内頚動脈内膜剥離術についてのレビューがあったので参考にしたい。これによると、内膜剥離術によって利益を受ける人もいれば、逆に有害である人もいるということになる。誰でもやればよいというわけではなさそうである。

最も利益を受ける可能性の高い患者群

 最も手術によって利益を受けるような患者の特徴は症状を伴い、内頚動脈が70%以上の狭窄している患者である。その中でも、

  • もし狭窄の症状がなければ健康な高齢患者
  • 大脳半球の一過性脳虚血発作を認める患者
  • 頭蓋内、頭蓋外内頚動脈に2つ以上の狭窄を認める患者
  • 側副血行路が無い患者

が最も利益を被る可能性が高い。それには劣るものの、おそらく利益があると考えられるのは

  • 広範なleukoaraiosisのある患者
  • 対側の内頚動脈狭窄のある患者
  • 血管内の血栓のある患者

である。もちろん、これらの患者は手術による脳梗塞や死亡の危険性も高い。

比較的利益を受ける可能性の高い患者群

  • 症状があって50-69%の狭窄を認める患者
  • ラクナ梗塞を認める患者
  • 内頚動脈がほぼ閉塞している患者

利益より害を受ける可能性の高い患者群

  • 女性
  • 一過性で単眼の失明のある患者
  • 50%以下の狭窄を認める患者
  • ほとんどの無症状の患者(無症状の患者に対するRCTで脳卒中のNNTが2年で83人とする研究がある。この研究では、手術による脳梗塞、死亡は1.5%であったが、他の研究では約3~6%とするものもある。)

 UpToDateではconsensus statement published in 2001 from the Stroke Council of the American Heart Associationとevidenced-based review of CEA published in 2005 by the American Academy of Neurologyに基づいた推奨をしている。

 無症候の患者で60-69%の狭窄のある患者では有益とするものの、脳卒中予防に関するNNTが大きく(3年で33人としている)、適応を選ぶ必要性を指摘している。内膜剥離術の効果は数年後から明らかになってくるので、長期的な予防の観点から適応を考える。

 無症状の場合には著者らは以下のような患者に内膜剥離術を推奨しているようだ。

  • 40-75歳
  • 60-99%の狭窄
  • 生命予後が少なくとも5年以上
  • 周術期の合併症(脳卒中、死亡)が3%以下であること(施設、術者の要因)

(Grade 2A)

 CMAJのレビューと同様、無症状の女性には手術を勧めていない。

 症状のある場合には著者らは以下のような患者に内膜剥離術を推奨しているようだ。

  • 77-99%の狭窄
  • 生命予後が少なくとも5年以上
  • 周術期の合併症(脳卒中、死亡)が6%以下であること(施設、術者の要因)

(Grade 1A)

 77-99%の狭窄があり、症状がある場合のNNTは5年間で6.3人としている。

  • 狭窄が50-69%
  • 男性
  • 生命予後が少なくとも5年以上
  • 周術期の合併症(脳卒中、死亡)が6%以下であること(施設、術者の要因)

(Grade 2A)

 狭窄が50-69%程度では、症状があっても女性では明らかな利益が示されていない。

 この場合のNNTは5年間で22人としている。

 50%以下の狭窄の場合には手術は推奨されておらず、内科的治療が推奨される。(Grade 1A)

参考文献

  1. Barnett HJ, Meldrum HE, Eliasziw M; North American Symptomatic Carotid Endarterectomy Trial (NASCET) collaborators. The appropriate use of carotid endarterectomy. CMAJ. 2002 Apr 30;166(9):1169-79. Review.
  2. Carotid endarterectomy in asymptomatic patients. UoToDate 14.3 (http://www.uptodate.com/)
  3. Carotid endarterectomy in symptomatic patients. UoToDate 14.3 (http://www.uptodate.com/)

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