はじめに
UpToDateの記載によると、血清学的検査は免疫不全患者の CMV 疾患の診断には役立たないとされている。定量的CMV PCRや抗原血症検査(pp65抗原)などの有用性について指摘されている。1) もちろん、免疫機能が保たれた患者の場合は別で、血性学的検査もそれなりに有効だと思う。本当にCMV感染症なのかを議論すると、プライマリ・ケアの現場で行える保険適応の検査だけでは判断が難しいことが多い。臨床的にそう考えるのが合理的と判断するしかない場合もあると思う。
サイトメガロウイルス感染症の診断について復習してみた。
サイトメガロウイルス感染症の診断のまとめ
- 2010年の献血者2,400人のCMV IgG抗体陽性は93%であった。しかし、近年成人における陽性率は若年者を中心に60%台まで低下してきている。2)
- 免疫不全者におけるCMV感染症は、体内潜伏感染CMVの再活性化が多い。2)
- 診断は臨床歴、臨床所見、検査データを統合して行われる。CMV は生涯にわたる潜伏感染を引き起こすため、活動性疾患と潜伏感染および無症候性再活性化を区別することは、診断上のさらなる課題となる。1)
- CMV 感染症の診断には、各感染臓器由来の臨床症状に加えて、感染臓器におけるCMV 感染の証明が必要となります。つまり、CMV肺炎、腸炎、肝炎などが疑われた場合には、各臓器の生検検体を侵襲的処置(内視鏡検査や腹腔鏡、超音波ガイド下での生検など)により採取し、組織・病理学的にCMV 感染の存在を示す必要があります。3)
- 血清学的検査は、免疫不全患者の CMV 疾患の診断には役立たない。(一方、)免疫能のある個人における一次 CMV感染の診断は、通常、血清学的検査に基づいて行われる。CMV 特異的免疫グロブリン IgMの検出またはCMV特異的IgGの4倍の増加により、推定診断が下される。1)
- CMV感染は血液・体液・組織などからのCMV抗原検出、CMV由来核酸検出、CMV分離で診断される。2)
- 検査法には、血清学的検査、antigenemia法(CMV抗原血症法)、核酸定量法(CMV定量PCR)、培養分離、シェルバイアル法などがある。わが国ではCMV感染症に先行するCMV抗原血症を短期間で診断するantigenemia法が日常臨床で施行されていたが、核酸定量法が2020年保険収載され、多くの施設で施行されつつある。2)
- antigenemia法:CMV 感染白血球に発現しているCMV抗原(pp65)に対するモノクローナル抗体を用いて陽性細胞数を半定量評価。陽性細胞が末梢血多形核白血球中に何個あるか定量。2種類の抗体(C7HRP、C10C11)が使用されており、前者では白血球5.0×104当たり、後者では15×104当たりの陽性細胞数報告。白血球数や評価者の影響を受けるため客観性に劣る。組織に限局したCMV感染症では感度が低い。2)
- アンチジェネミア法は、CMV感染初期から検出される同ウイルスの構造タンパク質のpp65に対するモノクローナル抗体を用い、CMV抗原陽性細胞を染色して証明する。4)
- C7-HRPやC10C11などの血液検査は、いずれもCMV抗原血症の有無を評価するための方法で、CMVpp65抗原に対するモノクローナル抗体を用い、末梢血中のCMV 抗原陽性細胞を検出する方法を意味します。3)
- CMV感染症は抗体価などで診断されていたが、判断が難しい例も多く早期診断ではアンチジェネミア法が優っている。また、PCR法では定量性に乏しいが、アンチジェネミア法では陽性細胞数が報告されることから、定量値が得られるという利点がある。4)
- 核酸定量法:感度・定量性・迅速性から、臓器移植の患者におけるCMVモニタリングに最も推奨される。2)
- 組織病理検査は、CMV診断の重要な根拠となる。生検の侵襲を考慮し、CMV DNA血症や臨床症状で診断する場合も多いが、CMV DNA血症を伴わない場合は、病理所見が重要である。典型的なCMV感染症の組織所見として巨細胞封入体(細胞質・核の膨大化、好塩基性封入体)が知られるが、これは他のヘルペスウイルス感染症でもみられるため、免疫染色やin-situ hybridizationでの確認が行われる。2)
- CMV 抗原血症のみでCMV 感染症と判断されているケースも見かけられますが、CMV がどの臓器に感染して症状が生じているのか、また本当にCMV感染による症状であるのか(その他の原因は除外できているのか)という点を明らかにするためにも、生検を積極的に行って確定診断をつけにいく姿勢が重要です。3)
- CMV症候群:血液中からCMV検出かつ、①38℃以上の発熱,② 倦怠感・疲労、③ 白血球減少、④ 異形リンパ球(5%以上)、⑤ 血小板減少、⑥ 肝逸脱酵素上昇のうち2つ以上を満たす。臓器症状としては、いろいろな臓器で多彩な症状を呈する。2)
ただ、以下のように、PCRもアンチゲネミアも保険で算定できる条件は厳しく、プライマリ領域で測定するのはハードルが高い・・・。(以下は診療報酬点数に関する記載)
17 HBV核酸プレコア変異及びコアプロモーター変異検出、ブドウ球菌メチシリン耐性遺伝子検出、SARSコロナウイルス核酸検出、HTLV-1核酸検出、単純疱疹ウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス核酸定量、サイトメガロウイルス核酸定量450点
(24) 「17」のサイトメガロウイルス核酸定量は、以下のいずれかに該当する場合であって、血液を検体としてリアルタイムPCR法によりサイトメガロウイルスDNAを測定した場合に算定する。
ア 臓器移植後若しくは造血幹細胞移植後の患者、HIV感染者又は高度細胞性免疫不全の患者に対して、サイトメガロウイルス感染症の診断又は治療効果判定を目的として行った場合。ただし、高度細胞性免疫不全の患者については、本検査が必要であった理由について、診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。
イ 症候性先天性サイトメガロウイルス感染症患者に対して、治療効果判定を目的として行った場合。
定量的CMV PCRの検査特性
文献5によると、腎臓または肝臓移植患者のCMV消化管疾患に対するCMV PCRの感度は85%、特異度は95%であった。(陽性尤度比17、陰性尤度比0.16)
文献6は移植患者を対象とした研究。固形臓器移植レシピエントでのCMV感染症に対する感度は80%、特異度は74%(陽性尤度比3.1、陰性尤度比0.27)、同種造血幹細胞移植レシピエントでの感度は87%、特異度は87%(陽性尤度比6.7、陰性尤度比0.15)であった。
pp65抗原の検査特性
文献7によると、リウマチ性疾患患者におけるCMV感染症に対する感度は0.94、特異度は0.84(陽性尤度比5.9、陰性尤度比0.07)と報告されている。
一般的な病原菌だからこそ診断が難しい。特に、CMV感染(CMV infection )なのか、CMV感染症(CMV disease)なのかは注意すべき点だ。何をどこまで明らかにして治療方針を決めていくのか意識する必要がある。
参考文献
- Approach to the diagnosis of cytomegalovirus infection. UpToDate last updated: May 16, 2024.
- 杉村淳. 特集 病因・ 病態生理から読み解く腎・ 泌尿器疾患のすべて Ⅷ. 腎移植関連 3. 感染症 ① ウイルス感染症 サイトメガロウイルス (CMV). 腎と透析, 2023, 95.7: 514-518.
- 阿部雅広; 荒岡秀樹. 特集 抗菌薬の考え方, 使い方-ホントのところを聞いてみました その他 サイトメガロウイルス感染症. medicina, 2016, 53.7: 1038-1040.
- サイトメガロウイルス抗原《アンチジェネミア法》. WEB総合検査案内. LSIメディエンス. https://data.medience.co.jp/guide/guide-05080010.html
- Durand CM, Marr KA, Arnold CA, Tang L, Durand DJ, Avery RK, Valsamakis A, Neofytos D. Detection of cytomegalovirus DNA in plasma as an adjunct diagnostic for gastrointestinal tract disease in kidney and liver transplant recipients. Clin Infect Dis. 2013 Dec;57(11):1550-9.
- Dioverti MV, Lahr BD, Germer JJ, Yao JD, Gartner ML, Razonable RR. Comparison of Standardized Cytomegalovirus (CMV) Viral Load Thresholds in Whole Blood and Plasma of Solid Organ and Hematopoietic Stem Cell Transplant Recipients with CMV Infection and Disease. Open Forum Infect Dis. 2017 Jul 8;4(3):ofx143.
- Suga K, Nishiwaki A, Nakamura T, Kagami SI. Clinical significance of cytomegalovirus (CMV) pp65 antigenemia in the prediction of CMV infection during immunosuppressive therapy for rheumatic disease. Rheumatol Int. 2023 Jun;43(6):1093-1099.
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