はじめに
CRPSの患者。麻酔科で交感神経ブロックを施行してもらった。症状はやや改善。CRPSについて復習しておく。
CRPSの診療のポイント
- 複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは、組織損傷後に創傷が治癒した後にも痛みが遷延する、一つの疾患というよりはむしろ病態と呼ぶべきである。1)
- 軽微な外力でも生じ、通常の過程では想像がつかないほど不釣合いな痛みや症状を呈する何とも不可解な疾患である。4)
- 近年の報告では原因としては、① 神経ペプチドが高頻度に発現していることから神経因性炎症が惹起されている可能性、② HLA 遺伝子型の偏りによる自己免疫疾患としてのCRPS の可能性、③ 先行する細菌、ウイルス感染より生じた交感神経系に対する自己抗体が外傷後に軸索に異常を生じさせるという“two-hit process”仮説が報告されているがいまだ決定的なものとはなっていない。2)
- 神経学的支配に限らない広範囲に強い疼痛や浮腫、拘縮など多彩な症状を呈する。2)
- CRPS は症例ごとに多彩な病態があり、さらに罹患期間によって病態が変化する。1)
- 一般に下肢よりも上肢に多く、神経支配領域(デルマトーム)と無関係に発症し、同側および対側の四肢に広がることがある。3)
- CRPS 患者の心理・社会的な問題や性格特性は、CRPS の原因ではなく結果とされる。3)
- 1994 年の国際疼痛学会(IASP)の「CRPS 診断基準」が病態を端的に表現している。(中略) しかし、この診断基準は特異度が低いため、運動機能を追加し、自覚所見と他覚所見から判断する「Budapest Criteria」が評価されている。1)
1994 年の国際疼痛学会(IASP)のCRPS 診断基準
- 原因となる傷害と不釣り合いな強い持続痛、アロディニア、痛覚過敏
- 病期のいずれかの時期において疼痛部位に浮腫、皮膚血流の変化、発汗異常のいずれかが存在
- 病態を説明できるほかの器質的原因がないこと
- 1994 年世界疼痛学会のCRPS 診断基準は、外傷や不動化の既往と原因から想像できない疼痛、浮腫、皮膚血流変化などからなり、感度100%,特異度41%で、早期診断には有用であるが、鑑別診断が困難であった。そのため1997 年Harden らは、関節可動域制限や単純X線写真の骨萎縮像,皮膚温度変化(1 ℃以上)、発汗変化などの他覚的所見を組み込み、感度99%、特異度68%の新しい診断基準を報告した。3)
CRPS の診断基準(Harden)
1.原因から理解できない持続性疼痛
2.以下の4 項目のうち3 項目以上で1 つ以上の症状を有する
● 知覚障害:知覚過敏・allodynia
● 血管運動障害:温度の非対称・皮膚色調変化/非対称
● 浮腫/発汗:浮腫・発汗変化・発汗の非対称
● 運動障害・萎縮性変化:関節可動域減少・運動障害(筋力低下・振戦・ジストニア)・髪/爪/皮膚の萎縮性変化
3.以下の徴候のうち,2 項目以上を少なくとも病期中に一度有する
● 知覚障害:痛覚過敏(ピンプリック)・allodynia(触覚や圧迫,関節運動で惹起)の証拠
● 血管運動障害:温度の非対称・皮膚色調変化/非対称の証拠
● 浮腫/発汗:浮腫・発汗変化・発汗の非対称の証拠
● 運動障害・萎縮性変化:関節可動域減少・運動障害(筋力低下・振戦・ジストニア)・髪/爪/皮膚の萎縮性変化の証拠
4.これらの症状や徴候を説明できる他の疾病のないこと
- 本邦でも、厚生労働省の研究班(2005~2007 年、班長:真下 節)により「複合性局所疼痛症候群の判定指標」が作成された。判定指標に添付された「但し書き」にあるように、この指標は診断基準ではないが、CRPS は早期治療が重要であり、スクリーニングとしての意義がある。1)
2008 年厚生労働省研究班による複合性局所疼痛症候群のための判定指標
CRPS 判定指標(臨床用)病気のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち2 項目以上該当すること。ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.持続性ないしは不釣合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み
(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮 腫
診察時において、以下の他覚所見の項目を2 項目以上該当すること。
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮 腫
CRPS 判定指標(研究用)ではそれぞれ上記3 項目以上に該当すること。
- (判定指標の高い誤診率について)例えば、橈骨遠位端骨折術後1 カ月の患者が強い痛みを訴えて手指がむくんでいればCRPS 臨床用の診断となってしまう。痛みのために手指が動かなければ可動域が制限され、研究用としてもCRPS の診断に至ってしまう。この診断基準はあくまでも早期診断・早期治療のためのものと認識し、但し書きに書かれている内容をしっかりと理解する必要がある。「補償や訴訟などで使用するべきではなく、重症度・後遺障害の有無の判定指標ではない。」ということである。4)
- 他覚的所見として単純X 線写真の骨萎縮所見や三相骨シンチグラフィーは有用である。そのほか、発汗量や定量的発汗軸索反射テストなどの血管運動障害所見や、2 ℃以上の皮膚温度変化も挙げられているが統一されていない。3)
- CRPS の終末期において,① 関節拘縮、② 骨萎縮、③ 軟部組織(筋肉)の萎縮、④ 皮膚の変化(皮膚温の変化、皮膚の萎縮)は必ず認められる。このすべてが揃っていない場合はCRPS として診断することは不適切である。4)
- CRPS との鑑別診断として、四肢の感染症やコンパートメント症候群、静脈血栓症、真性多血症、末梢血行障害、末梢神経障害、胸郭出口症候群、レイノー現象、転換性障害(ヒステリー)、虚偽性障害(ミュンヒハウゼン症候群)が挙げられる。3)
- 従来、神経損傷が明らかでないものがCRPS type Ⅰ(従来の反射性交感神経性ジストロフィー)、明らかなものがCRPS type Ⅱ(従来のカウザルギー)として定義されていた。1)
- 現在では神経障害を伴うCRPS type Ⅰと神経損傷を伴わないCRPS type Ⅱの間には臨床的な差がないことから、type 分類は行われていない。2)
- CRPS type Ⅰ患者は女性に多く、下肢よりも上肢に多く発症する。骨折や捻挫,手術をきっかけとして発症するが、10%は原因不明である。1)
- CRPS 発症と強い関連性が示唆されている因子としては、女性(特に閉経後)、橈骨遠位端骨折・足関節の脱臼骨折または関節内骨折、受傷初期に訴える痛みの度合いが通常より強いことが挙げられる。橈骨遠位端骨折後においては、ギプス固定の圧とCRPS の発症とに因果関係がある。1)
- 後遺症認定の際には、CRPS の医学的な判定と労働災害保険の基準とは別であることを明記し、患者に説明しておくことが、その後の問題発生を防止するために重要である。1)
- CRPS は原因から予想される程度や範囲を逸脱した激しい症状が特徴のため、医療過誤と疑われ、裁判に至ることもあるので、CRPS の診断は重要である。3)
労災を専門とする法律事務所のウェブサイトにはCRPSの判定基準と労災の招待投球の認定要件の違いについて以下のように記載されてる。(https://workers-accident.jp/results/551)
- 労働基準監督署がCRPSの障害等級の認定をする場合、厚生労働省のCRPS研究班が作成したCRPS判定指標よりも厳しい要件が課されています。
- 病院の先生は、厚生労働省CRPS研究班の作成したCRPS判定指標はご存知である方が多いですが、労災保険における障害等級認定のためのCRPSの要件についてはご存知でないという方が多くなっています。
- そこで、労災保険におけるCRPSの障害等級の要件として、①関節拘縮、②骨萎縮、③皮膚の変化(皮膚温の変化・皮膚の萎縮)が挙げられていることを説明し、Cさんに該当する所見を、障害診断書等にご記載していただくことにしました。
- 治療も投薬、手術、運動療法、認知療法などさまざまな方法が試みられているが明確なものはなく、臨床上難渋することが多い。2)
- CRPS の確定診断を待って治療を開始するのではなく、早期にCRPS を疑い、投薬やブロック、リハビリテーション(以下、リハ)などの集学的治療を開始すべきである。3)
- 神経ブロックによる治療法1)
1)静脈内区域麻酔(IVRA)、局所静脈内ステロイド薬注入
2)交感神経ブロック
3)パルス高周波法(PRF)
4)その他の神経ブロック
5)ボツリヌストキシン療法 - その他の治療法1)
1)集学的治療
2)リハビリテーション
3)薬物療法
① ステロイド薬
② ビスホスホネート製剤
③ NSAIDs
④ 抗うつ薬
⑤ Ca2+チャネルα2δリガンド
⑥ ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出物質
⑦ オピオイド鎮痛薬
⑧ ケタミン
⑨ その他:大量ビタミンC 経口投与
4)ニューロモデュレーション
5)心理的アプローチ - CRPS の診断基準を満たす前にpre-CRPS の段階で疾患を発見し、ステロイド大量投与を行うことにより、CRPSに移行することなく治癒可能なことが示唆された。2)
- 浮腫と痛みが強く炎症が目立つCRPS 初期の症例には短期間のプレドニン®内服が有効である、というNSAIDs と比較した無作為化比較試験が報告されている。4)
- 別所らは、温冷交代浴はCRPS 全例に対してまず行ってよい治療法であると報告した。(42℃前後の湯 3 分間)→(10℃前後の水 30 秒~1 分)→(4~5 回繰り返し、温水で終了)1 日4 回以上 4)
診断も対応も難しい疾患なので、定期的に知識の整理をしておくことが特に重要な疾患の一つだと思う。
参考文献
- 一般社団法人 日本ペインクリニック学会. ペインクリニック治療指針 改訂第6 版. https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/kaiin_sisin06.html
- 太田剛, et al. 上肢疾患の診断と治療の進歩 (新鮮外傷を除く) Ⅱ. 疾患各論 6. 神経障害・ 末梢神経疾患 1) 複合性局所疼痛症候群 複合性局所疼痛症候群 (CRPS) の治療. 別冊整形外科, 2022, 1.82: 133-135.
- 木村浩彰. 複合性局所疼痛症候群の診断と治療. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2016, 53.8: 610-614.
- 小川健. 特集 上肢の麻痺と痛み 複合性局所疼痛症候群 (CRPS) に伴う上肢麻痺と痛み. 関節外科 基礎と臨床, 2022, 41.5: 494-500.
過去の勉強ノート
CRPS(complex regional pain syndrome)に対するビスホスホネートの効果(140815)
症例1:後頭部の頭部裂創の後に痛みが残っている。触れるだけでビリビリするような異常知覚あり。(研修医からの症例報告)
症例2:足趾をぶつけた後、数か月しても腫脹が軽減しない。時期を変えた複数回のレントゲン撮影でも骨折は認めず。むしろ症状の訴えが強くなっている。患側の足の発汗が多い。
両症例とも、複合性局所疼痛症候群:CRPSが鑑別に挙がったため、基本的事項を勉強。また、ビスホスホネート製剤の効果を検討したRCTを読んでみた。
RCTの前にCRPSについての基本的な部分を復習する。
- 骨折、組織傷害や神経損傷などによって引き起こされる免疫系、神経系(感覚神経、運動神経、自律神経)および情動系の病的変化によって発症する慢性痛症候群である。2)
- 外傷に引き続いて発症する症候群で、通常よりも強い痛みやアロディニア、痛覚過敏などの感覚の異常、皮膚温の変化や発汗の異常など自律神経系の障害、筋力低下や骨の萎縮など運動機能障害を有する。3)
- 複合性局所疼痛症候群とは、外傷などを契機として四肢に痛みと機能障害が遷延し、浮腫、皮膚温、発汗などの自律神経が関与していると考えられる症状や神経学的に説明のつかない筋力低下や機能障害がみられる場合に分類される症候群である。6)
- 1946年Evansは、これらの病態を反射性の交感神経の異常を伴ったものと考え、反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;以下RSD)と名づけた。3)
- CRPSへの用語変更の理由:患肢において必ずしも交感神経の機能が亢進していないことや、交感神経ブロックの効果のない症例がむしろ多いことが報告され、この病態と交感神経の関与は必ずしも強くないことがわかり、病名の変更が提案され、代わりに提唱された名前がCRPSである。3)
- 末梢性因子と中枢性因子が複雑に絡み合って悪循環を形成し、疼痛過敏、アロディニア、浮腫、発汗異常、運動障害および萎縮性変化などの症候が出現すると考えられている。2)
- 加えて、振戦やジストニアなどの四肢の運動異常、手指の巧緻性の低下や関節可動閾制限などが認められる。
- 「患肢の位置がわからなくなる」とか「自分の手が自分のものでないような気がする」などの認知異常がみられることもある。さらに、病期が遷延すると不安やうつなどの情動異常や、痛みを極端に悲観的に捉える破局的思考をきたしてくることもある。4)
- その発症には脊髄の役割がよく知られているが、脳も広範囲にわたって関与しておりその役割は非常に大きいことが明らかになっている。4)
- 原因については、遺伝的素因や脳の機能異常、末梢組織におけるサイトカインの関与などを示唆する知見もあるが、単一の病態ではなく、痛みとそれに引き続いて起こる心因反応、不動化、および環境の影響などが複雑に相互作用し、さらに痛みが遷延し行動に影響を及ぼす病態の総称と理解するのが妥当であろう。6)
- 末梢性因子として局所における慢性炎症や自己免疫機序の関与についても注目されている。2)
- CRPSは症候群であり、単一の病態でなく複数の病態の疾患が含まれている可能性がある。2)
- 複合性局所疾痛症候群の場合には、第三者行為である場合がほとんどで、不満や怒り、疾病利得といった心因反応のなかでも医療者が対応に苦慮する感情や動機を伴っていることが多いのが特徴である。6)
- IASPは、1994年に反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;RSD)とカウザルギーとよばれてきた疾痛症候群をそれぞれCRPSタイプⅠとタイプⅡに整理し、合わせてその診断基準を発表した。診断基準は
①四肢に外傷の既往があるか、もしくはギブス固定などの動かさない原因がある(タイプⅠ)こと、または四肢の比較的大きな神経の損傷がある(タイプII)こと
②原因となる刺激から判断して不釣り合いの持続的疼痛、アロディニア、痛覚過敏があること
③それに付随して浮腫とか皮膚血流量の変化、皮膚温の左右差、発汗異常が病期のいずれかの時期に存在すること
④他の疾患を除外できること
の4項目からなっている。しかし、この診断基準には運動障害と萎縮性変化が含まれないことや除外診断が不明瞭であることなどの理由によって、感受性は高いが特異性が低いという欠点があった。4) - 1994年に作成されたCRPS基準は臨床データに基づいたものではなく、専門家の合議で決められたものであり、その信頼性については実際の症例で検証する必要性があった。事実、糖尿病性神経障害との鑑別が必ずしも容易でないという報告があり、不適切な治療につながりかねないことが指摘された。また、診断基準に含まれる症状が、自覚的な徴候であるのか他覚的な症状であるのか明確にされていない点も問題であった。さらに、筋力の低下、筋萎縮、骨萎縮など、CRPSにおいて高頻度に見られる所見は診断基準に含まれていなかった。3)
- 1994年の診断基準には上記の問題があるため、それを改善するために実際の症例で見られる症状を自覚的徴候と他覚的症状にわけ、主成分分析を用いて解析し、まず内因的信頼度の高い診断基準の項目が作成された。3)
- 治療の目的で使用されることを想定した治療用診断基準(clinical criteria)と、臨床研究の目的で使用されることを想定した研究用診断基準(research criteria)の二つの診断基準が作られた。3)
- アメリカのデータによると臨床用診断基準の感度は0.85、特異度は0.6、研究用診断基準の感度は0.70、特異度は0.96であった。3)
- 最近、わが国で多施設臨床試験が行われ、四つの特徴的な症候である痛み・感覚異常、血管運動異常、浮腫・発汗異常、運動障害・萎縮性変化についてそれぞれ自・他覚的所見に基づいた評価・分析結果が得られた。そして、わが国ではこれらの研究成果に基づいて新しい判定指標(表2)が作成された。4)
- (住谷)典型的なCRPSと考えられる症例でも、腫れている、赤くなっている、あるいは紫色になっているなど症状の特徴には個人によって幅があって顕著でない場合も多く、このような症状だけでなく患者さんの痛みとのつき合い方などを加えて総合的に判断し、CRPSという疾患名を使うようにしています。5)
- (柴田)一応基準はあるものの、実際の診療現場ではCRPSという疾患名がいろいろな意味で使われている。(中略) CRPSという疾患名の意味するところには「狭義」と「広義」があるのではないでしょうか。典型的な条件を満たす「狭義」のCRPSと、治療抵抗性であるという「広義」のCRPSが存在しているようです。5)
- 一般的にCRPSの治療では、できるだけ早期に集学的治療を開始することが重要である。2)
- 痛みの消失が治療の最終目標ではなく、身体機能の改善が第一の治療目標になる。さらに、情動・精神的な異常の改善も重要で、最終的に患者の自立と社会復帰を目指す。4)
- 治療の限界を前もって提示し限界を設定しておかないと、治療がかえって症状遷延に寄与してしまうことがある。対応のコツとしては、状況を把握することと接する医療者全員の対応方針を統一しておくことが重要。6)
- 複合性局所疼痛症候群という病態が多彩で複雑疾患概念や基準があいまいな病名について、普遍的に効果の期待できる薬剤や治療法は存在しない。個々の患者において問題点を整理し、解決の糸口に近づき得る実践可能な方法を選択するということになる。6)
- CRPSの治療についての無作為化比較臨床試験(RCTs)でエビデンスが確立された治療法はきわめて少なく、現時点ではエビデンスに基づいた治療指針の作成はできていない。2)
- CRPSの国際専門委員会では、①リハビリテーション療法、②心理学的療法、③痛みに対する治療を患者の状態に応じて同時に組み合わせて行うように推奨している。2)
- CRPSの治療は、神経ブロック療法、薬物療法、リハビリテーション療法および心理学的療法が中心になる。初期であれば神経ブロック療法が有効とされ、積極的に神経ブロック療法を行うことが勧められる。2)
- CRPSに対する薬物療法についてのRCTsでエビデンスが確認された薬剤はきわめて少なく、アレンドロン酸などのビスホスホネート製剤の有効性が報告されている程度である。2)
- しかし、CRPSの発症メカニズムに神経炎症の関与が疑われることから、わが国ではステロイドの全身または局所静脈内投与が広く行われ、一部の症例に効果が認められている。また、一般に神経障害性疼痛の治療に準じてCRPSの薬物療法が推奨されている。第一選択薬としては、抗うつ薬やCa2+チャネルα2δサブユニット拮抗薬のガバペンチン、プレガバリンが用いられる。さらに、第二選択薬としては医療用麻薬であるオピオイドが、第三選択薬としては抗てんかん薬、抗不整脈薬N-methyl-D—aspartate(NMDA)受容体拮抗薬などが用いられる。4)
- CRPSでは患肢の運動機能改善が第一の治療目標になる。CRPSでは発症早期から関節可動閾制限、骨萎縮や患肢ネグレクト現象がみられることがあり、できるだけ早期よりリハビリテーションを開始すべきである。2)
- (住谷) 急性期の患者さんやギプスを外した直後という症例を除き、基本的に抗炎症薬は使わず、神経障害性疼痛の薬物療法に準じて選択しています、第一選択薬はプレガバリンか三環系抗うつ薬です。あとは、患者さんの痛みに付随する不眠や気分の落ち込みといった症状にあわせて、総合的に判断し薬物療法を選択しています。国際疼痛学会(IASP)のCRPS専門委員会でも、薬物療法を土台として患者さん自身が行うリハビリおよびADLを改善するための訓練が、治療の主軸として推奨されています。5)
- (住谷)リハビリが最も重要だと考えています。特に当院ではリハビリと並行して認知行動療法のような患者教育を重視しています。痛くても患肢を使うことが痛みの治療につながるという認識について患者さんの理解を得られるようご説明し、痛みとのつき合い方を学んでいただきつつリハビリを進めています。5)
- (牛田)抗炎症薬の使用については、ケース・バイ・ケースだと考えています。もちろん、リハビリを主軸に、サポートとして薬物療法を行うのは住谷先生と同意見ですが、リハビリで過度に動かした結果、炎症が起こり、痛みが増悪してリハビリが滞るという悪循環に陥る場合もあります。5)
- 現在のところ、CRPSの治療において心理学的アプローチの有効性を明確に証明した臨床研究はないが、心理学的療法の重要性は高いと考えられている。2)
- 現在のところ、CRPSに対する理学療法および作業療法のRCTでは効果があるというエビデンスは得られていない。4)
- CRPSの病態に局所神経炎症が関与していることから、免疫グロブリン療法のRCTが試みられている。4)
- 欧米の一部の施設で、大量のケタミンを約1週間にわたって持続投与するケタミンコーマ療法(n=20)が試みられ、重症のCRPSで驚くような治療効果が得られたことが報告されている。4)
- 今後期待される治療法として、①局所神経炎症に対する免疫療法、②大量ケタミン投与療法、③脳リハビリテーション(motor imagery/鏡療法、視野偏位プリズム順応療法)などが挙げられる。2)
- ほかの治療法で効果がみられない難治性のCRPSに衝撃波照射療法を試みた報告がある。30名の下肢CRPS患者に4,000回の衝撃波照射を72時間間隔で3回施行した結果、痛み軽減などの満足すべき効果が2ヵ月後に76.7%の患者に、6ヵ月後に80%の患者にみられた。今後のさらなる検討が待たれる。2)
- (住谷)CRPSの治療は長期化することが多いため、患者さんが自動運動によって治療に臨む姿勢が大切になります。それには、自分自身で自分の身体を治す意欲をもつことが大切であると理解していただく必要があります。医療者側から「効果がないから次はこれ」と次々と治療を与えるのではなく、ある程度まで進めたらあえて医療者が与える治療をセーブして、患者さんの自立を促すよう心がけています。5)
- 外傷や医療行為をきっかけとして遷延する痛みが診療の対象となる場合、身体的側面と心理社会的側面が関与するのに加えて、治療に携わった医療者の対応によって、より好ましくない方向に導かれていることが少なくないので注意が必要である。6)
- 痛みを訴える患者の声に耳を傾けることが非常に重要であることは前提であるが、痛みの軽減を目的に、効果の乏しい治療を提供する方法だけでは、この第三者行為をきっけとする痛みの慢性化を予防することはできない。逆に、治療行為そのものが痛み行動の強化因子になることがあるという事実を十分に知っておかなければならない。6)
- 治療が一時的な効果しか見られない場合にはその治療を中止する方針を立てておく。さらにその方針を患者が十分に理解し、同意することを事前に確認したうえで治療を開始する。6)
●PECO
P:Eighty-two patients with CRPS-I at either hand or foot
E:i.v. infusion of 100 mg neridronate given four times over 10 days
C:placebo
O:The primary efficacy measure was the comparative changes in the VAS 40 days after the first infusion of neridronate in the double-blind phase of the study.
手または足の複合性局所疼痛症候群の患者に対して、100㎎のneridronateを3日おきに計4回静注すると、プラセボを投与する場合と比較して、40日後の痛みに関するVASが改善するかどうかを検討した試験であることが分かる。
●妥当か
抄録中に、randomly assignedとあり、本文のStatistical analysisにはThe statistical analysis was carried out according to the intention-to-treat principleの記載がある。
●結果
痛みのVASはneridronate群で46.5mm改善し、プラセボ群で22.6mm改善した。
Within the first 20 days, visual analogue scale (VAS) score decreased significantly more in the neridronate group. In the following 20 days, VAS remained unchanged in the placebo group and further decreased in the active group by 46.5 mm (95% CI -52.5, -40.5) vs 22.6 mm (95% CI -28.8, -16.3) for placebo group (P < 0.0001). Significant improvements vs placebo were observed also for a number of other indices of pain and quality of life. During the open-extension phase in the formerly placebo group the results of treatment were superimposable on those seen during the blind phase in the active group. A year later none of the patients was referring symptoms linked to CRPS-I.
50%以上疼痛が改善した場合をresponderとすると、NNTは2.6≒3人と計算できる。
≧50% VAS score decrease was obtained in 30 neridronate-treated patients (73.2%) vs 13 controls (32.5%), with a 40.7% (95% CI 20.8%, 60.5%; P = 0.0003) treatment difference.
ちなみに、Neridronateは日本では未発売なので、外的妥当性には問題あり。
症例2は、後日、一般的な痛みの治療と温浴冷浴を指導したが、あまり効果なかったように思う・・・。痛いながらもできることを指示していたところ、自然に痛みは軽減(それでも数か月はかかっている)。何が良かったのかは不明だが、状態が良くないと判断されれば、早期に集学的に治療を行うのが無難だと思う。
参考文献
- Varenna M, Adami S, Rossini M, Gatti D, Idolazzi L, Zucchi F, Malavolta N, Sinigaglia L. Treatment of complex regional pain syndrome type I with neridronate: a randomized, double-blind, placebo-controlled study. Rheumatology (Oxford). 2013 Mar;52(3):534-42. doi: 10.1093/rheumatology/kes312. Epub 2012 Nov 30. PubMed PMID: 23204550.
- 眞下節.CRPS/RSD・カウザルギーの治療.BRAIN MEDICAL 24(1): 73-79, 2012.
- 柴田政彦, 阪上学, 住谷昌彦, 真下節.CRPSの診断基準について.慢性疼痛 26(1): 119-122, 2007.
- 眞下節, 二宮万理恵.神経障害性疼痛・複合性局所疼痛症候群(CRPS).診断と治療 101(11): 1699-1705, 2013.
- 牛田享宏, 住谷昌彦, 柴田政彦.CRPS 複合性局所疼痛症候群.Practice of Pain Management 4(2): 80-91, 2013.
- 柴田政彦.複合性局所疼痛症候群.Modern Physician 34(1): 57-59, 2014.
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