はじめに
総胆管結石の症例。急性発症の心窩部痛で季肋部に圧痛を認めた。血液データはWBCが上昇しているくらいで、肝胆膵系のマーカーは陰性。CTで膵管合流部あたりに結石を認めたが胆管の拡張は明らかでなかった。後ほど、そのCTの膵周囲にわずかな急性膵周囲液体貯留acute peripancreatic fluid collections (APFC)が指摘され、胆石膵炎の合併を疑われた。
膵炎が発症間もない場合には超音波検査を繰り返すか、血液検査で異常が認められなくてもCTを注意深く読んだ方がいい。その目で見ないと小さな所見は見逃してしまう。膵炎の診断について復習。
診断基準
診断基準は以下の通り。膵酵素の上昇が無くても、それ以外の2項目で診断可能。
- 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
- 血中または尿中に膵酵素の上昇がある
- 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある
上記3項目中2項目以上を満たし、 他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。 ただし、 慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。
注:膵酵素は膵特異性の高いもの(膵アミラーゼ、リパーゼ)を測定することが望ましい。
厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班 2008年より
文献1では、CTについて、膵実質の状態(腫大、還流不全、壊死など)や周囲の炎症波及の経時的変化の追跡にも有用である他、血管系合併症(仮性動脈瘤、門脈血栓など)の評価も同時に可能であることが記載されている。
アミラーゼ、リパーゼの検査特性
文献2にはアミラーゼとリパーゼの検査特性についてまとめられている。
血清アミラーゼ、血清リパーゼ、尿中トリプシノーゲン-2の標準閾値(血清アミラーゼと血清リパーゼは正常値の3倍超、尿中トリプシノーゲン-2は50 ng/mLを超える)では、感度が同程度 (それぞれ0.72(95%信頼区間0.59-0.82)、0.79(95%CI 0.54-0.92)、0.72(95%CI 0.56-0.84))であることが示されている。特異度も同程度(それぞれ0.93(95%CI 0.66-0.99)、0.89(95%CI 0.46-0.99)、0.90(95%CI 0.85-0.93))である。2)
これを表にしてまとめてみる。リパーゼのほうが有用なイメージがあったが、この研究結果からはどちらがいいとは一概には言えない。
感度(%) | 特異度(%) | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
アミラーゼ | 72 | 93 | 10.29 | 0.30 |
リパーゼ | 79 | 89 | 7.18 | 0.24 |
ガイドライン(文献1)では、急性膵炎の診断には、血中リパーゼの測定を推奨するとされている。ただし、血中リパーゼの測定が困難な場合は、血中アミラーゼを測定するということになっている。
診断を血液検査だけに頼ってはいけない。急性膵炎が疑わしい場合で、診断がはっきりしない場合には画像検査の閾値を下げるべきだ。UpToDateには、急性膵炎は圧痛を伴う持続的で重度の上腹部痛の患者で疑うが、腹痛の症状が典型的ではない場合や、血清アミラーゼ・血清リパーゼ活性が正常上限値の3倍未満の場合、造影腹部CTスキャンを実施することが勧められている。CTが利用できなければ超音波検査で低エコーの腫大した膵臓や、膵周囲の液体貯留を確認したい。
参考文献
- 日本膵臓学会. 急性膵炎診療ガイドライン2021. http://www.suizou.org/APCGL2010/APCGL2021.pdf
- Rompianesi G, Hann A, Komolafe O, Pereira SP, Davidson BR, Gurusamy KS. Serum amylase and lipase and urinary trypsinogen and amylase for diagnosis of acute pancreatitis. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Apr 21;4(4):CD012010. doi: 10.1002/14651858.CD012010.pub2. PMID: 28431198; PMCID: PMC6478262.
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