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Hoover testとsternocleidomastoid signの検査特性

はじめに

 筋力低下を訴える患者。詐病よりは、転換性障害を疑う(転換性障害の症状は虚偽性障害、詐病と違い無意識に起き、患者がコントロールできるものではない3))。研修医からHoover testの検査特性の質問があり、これを機会に調べてみることとした。

(ちなみに、今回の論文検索ではdrop arm testについて診断精度を調べた研究は見つけることができなかった。)

検査の診断精度

Hoover test

 文献1はHoover testの検査特性を調べた研究。脳卒中が疑われた患者を対象とした研究で、機能的(心因性)筋力低下と他の疾患(脳卒中や片頭痛、敗血症、末梢神経障害、失神、前庭障害、代謝障害などの様々な疾患)を比較している。

 結果は、感度63%、特異度100%と記載されているが、以下のように2×2表のセルに0を含むのでウォルフ‐ハルデイン補正を行う。

 疾患あり疾患なし
検査陽性50
検査陰性3116
論文の記載
 疾患あり疾患なし
検査陽性5.50.5
検査陰性3.5116.5
ウォルフ‐ハルデイン補正後

 補正後は、感度61.1%、特異度99.6%となり、陽性尤度比は143、陰性尤度比は0.391と計算できる。

sternocleidomastoid sign :SCM徴候

 文献2はsternocleidomastoid signの検査特性を調べた研究。転換性障害と診断された患者30人と、既知の神経学的(器質的)疾患を有する患者40人(脳卒中34人、多発性硬化症3人、髄膜脳炎2人、脳性麻痺1人)を対象としている。

 この検査の具体的な方法は、患者が検査者の抵抗に対して、頭部を5秒間両側に回転させるというもの。SCM徴候は、両側で筋力に差が認められた場合に陽性の機能的徴候とみなされ、弱い側が記録された(左向きの弱さは右SCMの弱さを示す)。

 この結果は、感度63%、特異度90%、陽性尤度比6.3、陰性尤度比0.41となる。陽性の場合には事後確率は上がるが、Hoover testほどではないようだ。

 疾患あり疾患なし
検査陽性194
検査陰性1136

 この論文では、platysma organic sign(広頸筋徴候)というものも調べられている。

 具体的には、参加者は大きく口を開け、検査者が額に加える抵抗に対して頭部を顎の方向に屈曲するよう指示された。広頸筋徴候は、広頸筋の非対称な収縮が観察された場合に陽性の器質的徴候とみなされた。2×2表のセルに0を含むのでウォルフ‐ハルデイン補正を行う。

 疾患あり疾患なし
検査陽性9.50.5
検査陰性31.530.5
ウォルフ‐ハルデイン補正後

 この結果は、感度23.2%、特異度98.4%、陽性尤度比14.4、陰性尤度比0.78であり、非対称な収縮があれば器質的疾患をむしろ疑ったほうがいいということだ。

 上記2つの検査を組み合わせて、SCM徴候陽性と広頸筋兆候陰性を認めた場合を陽性と定義すると、転換性障害の診断については以下のようにまとめられる。

 疾患あり疾患なし
検査陽性192
検査陰性1138

 この結果は感度63.3%、特異度95.0%、陽性尤度比12.7、陰性尤度比0.39となる。転換性障害の除外は組み合わせてもなかなか難しいということがわかる。

  転換性障害のような機能的な病態は否定が難しいことを改めて認識した。まずは患者の訴えを正面から受け止める、そんな心構えが必要だ。こちら側の機能もしっかりと整えて臨みたい・・・・。

参考文献

  1. McWhirter L, Stone J, Sandercock P, Whiteley W. Hoover’s sign for the diagnosis of functional weakness: a prospective unblinded cohort study in patients with suspected stroke. J Psychosom Res. 2011 Dec;71(6):384-6. doi: 10.1016/j.jpsychores.2011.09.003. Epub 2011 Oct 6. PMID: 22118379.
  2. Horn D, Galli S, Berney A, Vingerhoets F, Aybek S. Testing Head Rotation and Flexion Is Useful in Functional Limb Weakness. Mov Disord Clin Pract. 2017 Jun 19;4(4):597-602. doi: 10.1002/mdc3.12492. PMID: 30363481; PMCID: PMC6174474.
  3. 志賀隆. それで大丈夫? ERに潜む落とし穴 【第10回】 神経:転換性障害 https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2010/PA02907_10

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