ROCKY NOTEが地域医療を面白くします。

市中肺炎に対するステロイドの効果

はじめに

 市中肺炎でステロイドをルーチンに投与することはあまりないだろう。文献3と4では各国の学会の推奨をまとめてくれている。アメリカ感染症学会・アメリカ胸部学会のガイドラインでは敗血症性ショックを合併した市中肺炎(CAP)患者において、ステロイドが予後を改善させるものの、非重症CAP 患者ではルーチンでステロイドを投与しないことを強く推奨しており、敗血症性ショックを合併していない重症CAP患者においても投与しないことを弱く推奨している。また、日本呼吸器学会の成人肺炎診療ガイドライン2017ではCAP 患者にステロイドを投与しないことを弱く推奨するが、重症CAP患者に対しては投与することを弱く推奨するとしている。

 “軽症では推奨されないが、重症であれば検討する”というコンセンサスのなかで、個別のケースを考慮して決めるしかなさそうだ。単純な線引きは難しい。

市中肺炎に対するステロイドの効果のポイントのまとめ

  まず、コクランの論文1)から読んでみる。

  • ステロイド剤は、重症肺炎の成人患者の死亡率を有意に低下させた(リスク比0.58、95%信頼区間0.40-0.84)。1)
  • 非重症肺炎の成人患者では死亡率に違いは無かった(リスク比0.95、95%CI 0.45-2.00)。1)
  • 早期の臨床的失敗率(5-8日目の死亡、画像上の増悪、臨床的な増悪)は、重症および非重症肺炎の患者でステロイド剤により有意に低下した(それぞれリスク比0.32、95%CI 0.15-0.7、リスク比0.68、95%CI 0.56-0.83)。1)
  • 臨床的治癒までの時間、入院日数、集中治療室滞在期間、肺炎発症時にはない呼吸不全やショックの発症、合併症発症率を低下させた。1)
  • 一方、成人でステロイド剤投与群の高血糖発症率が有意に上昇した(リスク比1.72、95%CI 1.38-2.14)。1)
  • その他の有害事象や二次感染の発症率には、ステロイド剤投与群と対照群で有意差はなかった(リスク比1.19、95%CI 0.73-1.93)。1)
  • ステロイド剤治療は、特に高血糖などの有害事象発症リスクが高くなったが、害よりも利益の方が上回る。1) 

 ちなみに、重症肺炎の定義は以下の通り。メタ解析なので、当然すべての論文で基準が統一されているわけではないが、一般に入院が勧められるような患者だ。

Severe pneumonia was defined by the current clinical guidelines from British Thoracic Society (BTS), American Thoracic Society (ATS) or Pneumonia Severity Index (PSI) ≥4.

 文献2は比較的最近のメタ解析。

  • ステロイド剤治療は、総死亡率を低下させた(オッズ比[OR] 0.63、95%信頼区間[CI] 0.42-0.95、P=0.03)。2)
  • サブグループ解析により、使用ステロイド剤の種類が死亡率への効果を修飾することが示された。プレドニゾロンまたはメチルプレドニゾロン治療では総死亡率が低下(OR 0.37、95% CI 0.19-0.72)したが、ヒドロコルチゾン使用では低下しなかった(OR 0.90、95% CI 0.54-1.49)。2) →この研究に含まれた個別の研究での投与例は、プレドニゾロン40~50mg/日、メチルプレドニゾロン0.5mg/㎏を2日、メチルプレドニゾロン200mgを1日投与後に漸減、ヒドロコルチゾンは200~300mg/日程度、など。投与期間は1~10日だが、中央値は7日。
  • ICU滞在日数は、ステロイド剤群で対照群より有意に短かった(平均差-2.52日、95% CI -4.88~-0.15、P=0.04)。2)
  • ステロイド剤群で人工呼吸管理の必要性が低下する傾向が認められた(OR 0.53、95% CI 0.28-1.02、P=0.06)。2)
  • ステロイド剤群で有害事象発現率が高くなる傾向はみられなかった(OR 0.92、95% CI 0.58-1.47、P=0.74)。2)
  • 重症CAP患者に対する補助的な全身ステロイド治療は有効で安全。死亡率への効果はステロイド剤の種類により異なる可能性がある。2)

 文献3で紹介されていたRCT(文献5)を読んでみる。

PECO

P:adults who had been admitted to the intensive care unit (ICU) for severe community-acquired pneumonia
E:intravenous hydrocortisone (200 mg daily for either 4 or 7 days as determined by clinical improvement, followed by tapering for a total of 8 or 14 days) (All the patients received standard therapy, including antibiotics and supportive care.)
C:placebo
O:The primary outcome was death at 28 days.

 ICUに入院した重症市中肺炎の成人患者に対して、標準的治療に加えてヒドロコルチゾン(200mgを4または7日、その後8または14日で漸減)を投与すると、プラセボと比較して28日時点の死亡が減少するかを検討した研究。

 なお、対象患者の肺炎の重症度は、以下の4つの基準のうち少なくとも1つを満たすとされている。

  • 5 cm水柱以上の陽圧呼気終末陽圧を伴う人工呼吸
  • P/F比が300未満で、FiO2が50%以上の高流量鼻カヌラによる酸素療法
  • P/F比が300未満で、非再呼吸マスク装着による酸素療法
  • Pulmonary Severity Indexで、最も死亡率が高い群V(スコア130超)に該当する

妥当か

 抄録中に、double-blind, randomizedなどの記載がある。

 intention to treat解析についてははっきりとは記載されていないと思うが、本文を確認すると、ランダム化された800人のうち、795人が解析されており、結果の解釈には大きな影響はないだろう。

結果

 ステロイド群で6.2%の死亡があったのに対して、プラセボ群では11.9%の死亡を認め、ステロイド群で5.6%死亡が少なかった(絶対危険減少)。

 NNTは100/5.6=18人と計算できる。

By day 28, death had occurred in 25 of 400 patients (6.2%; 95% confidence interval [CI], 3.9 to 8.6) in the hydrocortisone group and in 47 of 395 patients (11.9%; 95% CI, 8.7 to 15.1) in the placebo group (absolute difference, −5.6 percentage points; 95% CI, −9.6 to −1.7; P=0.006).

 院内感染や消化管出血は同程度。ただ、ステロイド群では投与した最初の週のインスリンの量は多かった。

The frequencies of hospital-acquired infections and gastrointestinal bleeding were similar in the two groups; patients in the hydrocortisone group received higher daily doses of insulin during the first week of treatment.

 状況によるが、標準的な治療に加えるなら、ステロイドはそれほど悪くない選択肢。特に、重症の症例ほどリスクをベネフィットが上回る可能性が高い。

参考文献

  1. Stern A, Skalsky K, Avni T, Carrara E, Leibovici L, Paul M. Corticosteroids for pneumonia. Cochrane Database Syst Rev. 2017 Dec 13;12(12):CD007720. doi: 10.1002/14651858.CD007720.pub3.
  2. Huang J, Guo J, Li H, Huang W, Zhang T. Efficacy and safety of adjunctive corticosteroids therapy for patients with severe community-acquired pneumonia: A systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2019 Mar;98(13):e14636. doi: 10.1097/MD.0000000000014636.
  3. 福住美早樹, 井上博人. 第13回 重症市中肺炎患者にステロイドは有用なのか? . 治療 105(8): 1042-1045, 2023.
  4. 岡森慧, 石井誠. (3) 市中肺炎・ARDS. 薬局 72(5): 2301-2304, 2021.
  5. Dequin PF, Meziani F, Quenot JP, Kamel T, Ricard JD, Badie J, Reignier J, Heming N, Plantefève G, Souweine B, Voiriot G, Colin G, Frat JP, Mira JP, Barbarot N, François B, Louis G, Gibot S, Guitton C, Giacardi C, Hraiech S, Vimeux S, L’Her E, Faure H, Herbrecht JE, Bouisse C, Joret A, Terzi N, Gacouin A, Quentin C, Jourdain M, Leclerc M, Coffre C, Bourgoin H, Lengellé C, Caille-Fénérol C, Giraudeau B, Le Gouge A; CRICS-TriGGERSep Network. Hydrocortisone in Severe Community-Acquired Pneumonia. N Engl J Med. 2023 May 25;388(21):1931-1941.

過去の勉強ノート

肺炎にステロイドは有効か(110606)

 通常の肺炎治療にステロイドを加えると効果があるのだろうか。学生と一緒に抄読会。

 日本の市中肺炎ガイドライン(参考文献3)では以下のような記載があり、これといった推奨がされていない。

肺炎治療におけるステロイドの役割として、
1.解熱および全身状態の改善、
2.ガス交換能の改善、
3.線維化抑制、
4.抗ショック作用、
5.過剰なサイトカインの産生抑制、
などの作用が期待される。
ステロイドの使用量、使用期間、種類などに関しての一定の見解はない

 いつもの通り、公式どおり読んでいく。

●PECO

P:adults aged 18 years or older with confirmed community-acquired pneumonia who presented to emergency departments of two teaching hospitals in the Netherlands
E:intravenous dexamethasone (5 mg once a day)(addition of corticosteroids to antibiotic treatment)
C:placebo for 4 days from admission
O:The primary outcome was length of hospital stay in all enrolled patients

 つまり、18歳以上の市中肺炎患者に対して、抗生剤による治療に加えてデキサメサゾンを5mg、4日間追加すると、プラセボと比較して、入院期間が短縮するかどうかを検討した研究であることが分かる。

●妥当か

 抄録中にrandomisedの記載があるが、ITTについての記載は無い。ただし、Figure 1や結果の表を見ても、全例が解析に加えられていることが分かるので、ITT解析されていると判断できる。

 妥当性に関しては大きな問題は無いと思う。

●結果

 結果は以下の通り、dexamethasone群で約1日退院が早いという結果であった。

Median length of stay was 6・5 days (IQR 5・0–9・0) in the dexamethasone group compared with 7・5 days (5・3–11・5) in the placebo group (95% CI of difference in medians 0–2 days; p=0・0480). In-hospital mortality and severe adverse events were infrequent and rates did not differ between groups, although 67 (44%) of 151 patients in the dexamethasone group had hyperglycaemia compared with 35 (23%) of 153 controls (p<0・0001).

 1日早い退院をどう判断するのかは意見が分かれるところだと思うが、少なくとも、副作用が目立たなければチャレンジしてもいい気分になってくる。もう一論文読んでみる。

●PECO

P:Hospitalized patients, clinically and radiologically diagnosed with CAP using standard clinical and radiological criteria
E:40 mg prednisolone for 7 days
C:placebo, along with antibiotics
O:Primary outcome was clinical cure at Day 7

 臨床的、画像的に診断された市中肺炎の入院患者に対して抗生剤による治療に加えて40mgのプレドニゾロンを7日間投与すると、プラセボと比較して、臨床的な治癒が増加するかどうかを検討した研究であることが分かる。

●妥当か

Randomized、TABLE 3. CLINICAL OUTCOME BY INTENTION-TO-TREAT AND PER-PROTOCOL ANALYSIS、Intention to treatなどのキーワードがあり、妥当性は問題ないと思う。

●結果

 結果は以下のとおり、統計学的には差が無いものの、むしろプラセボ群で結果が良い傾向にある。

Clinical cure at Days 7 and 30 was 84/104 (80.8%) and 69/104 (66.3%) in the prednisolone group and 93/109 (85.3%) and 84/109 (77.1%) in the placebo group (P = 0.38 and P = 0.08). Patients on prednisolone had faster defervescence and faster decline in serum C-reactive protein levels compared with placebo.

 有効とする論文と、そうでない論文の両方を読んだ。方法が異なるので一概には言えないが、積極的に追加するには根拠が不十分と思う。むしろ、保守的に考えると、ルーチンでの投与は控えておいたほうが無難なような気がする。今後の研究にも注目したい。

参考文献

  1. Meijvis SC, Hardeman H, Remmelts HH, Heijligenberg R, Rijkers GT, van Velzen-Blad H, Voorn GP, van de Garde EM, Endeman H, Grutters JC, Bos WJ, Biesma  DH. Dexamethasone and length of hospital stay in patients with community-acquired pneumonia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2011 May 31. [Epub ahead of print]
  2. Snijders D, Daniels JM, de Graaff CS, van der Werf TS, Boersma WG. Efficacy of corticosteroids in community-acquired pneumonia: a randomized double-blinded clinical trial. Am J Respir Crit Care Med. 2010 May 1;181(9):975-82.
  3. 日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」成人市中肺炎診療ガイドライン

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました