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更年期障害に対するエクオールの効果

はじめに

 患者から伝聞。エクオールがいいとかそうでもないとか。更年期障害による症状に対して検討した論文を読んでみたいと思う。まずは基本的なところからチェック

エクオールのポイントのまとめ

  • エクオールは大豆イソフラボンの進化系ともいえる物質であり、腸内細菌によって生成される。2)
  • 大豆イソフラボンの1 つであるダイゼインの最終産物であるエクオールは短鎖脂肪酸などとともに、腸内細菌叢の代謝産物として広く認知されている。1)
  • エクオールは特定の腸内細菌によって大豆イソフラボンより代謝され、エストロゲン様作用を示す。1)
  • S‒エクオールは、エストロゲン様作用が大豆イソフラボンよりも強く、特にERβへの作用が強いためERβアゴニストとよばれることもある。2)
  • エストロゲン類似作用を示すエクオールは、サプリメントとして補充できることもあり、更年期症状の緩和や動脈硬化を基盤とする心血管疾患などの疾患予防が期待されている。1)
  • エクオールの産生には個人差があり、エクオールを産生する人(エクオール産生者)と産生できない人(エクオール非産生者)が存在する。産生者の割合は欧米人で約30%、日本人では約50%との報告がある。エクオール非産生者がS‒エクオールの効果を享受するためには外からエクオールを供給する必要がある。2)
  • 1997~2010 年までに探索されたエクオール産生菌は約15 菌株。2)
  • エクオールを産生できるかどうかは尿中のエクオール濃度を測定することで判定できるが、個々の産生能は経時的に変化することが明らかとなった。エクオール産生の変化には、エクオール産生菌の有無や大豆製品の摂取量だけでは説明できず、他の要因が関与している可能性がある。1) →保険適応なし。自己チェックできるようだ。(大塚製薬のエクオール検査「ソイチェック」のウェブサイト:https://www.otsuka-plus1.com/shop/pages/equelle_lp_nb_soycheck.aspx)
  • エクオール産生者でもエクオール産生能(生成量)には個人差や日間変動があり、さらには抗菌薬の服用により一過性のエクオール産生能の低下も考えられるため、日常生活下で一定に維持することは難しい。2)
  • エクオールがエストロゲン類似作用を示すことより、サプリメントとして入手可能であったこともあり、更年期症状に対する効果が期待されてきた。実際に、プラセボを用いた介入試験でほてりを軽減する効果が報告されている。1)
  • S‒エクオール10 mg 摂取による更年期症状(ホットフラッシュ・肩こり等)、閉経後女性の骨代謝、メタボリックシンドロームおよび、肌の老化(シワ)に対する臨床効果が確認されている。いずれの試験も無作為化比較試験(RCTs)であり、二重盲検のプラセボを対照としたものである。2)
  • 正常月経を有する日本人女性(20~35 歳,35 名)を対象に、S‒エクオール10mgの継続摂取による性ホルモンおよび月経周期への影響について検討した結果、女性ホルモンおよび月経周期に対して何ら影響はなかったことを確認している。2)

 エクオール含有商品の例(特定の商品を勧めるものではありません)

大塚製薬 エクオール含有食品「エクエル」

エクオールの効果を検討した個別のRCT

PECO

 まずは文献3を読んでみる。

P:57 postmenopausal Japanese women (mean age: 56±5.37 years)
E:Twenty-seven women received the equol supplement(Twenty-seven women belonging to the equol supplementation group received 10 mg of oral equol-containing supplement per day, composed of 98% S-equol, 2% daidzein, 0.2% glycitein, and 0.1% genistein extracted from fermented soybeans (product name: FlavoCel EQ-5, Daicel Corporation, Tokyo, Japan).)
C:the remaining received control
O:Metabolic and aging-related biomarkers were compared before and after the 3-month intervention. Climacteric symptoms were assessed every month using a validated self-administered questionnaire

 閉経後の日本人女性に対して、エクオールのサプリメント(10㎎/日)を投与すると、プラセボを投与する場合と比較して、3か月後の代謝や加齢に関連する各種バイオマーカーが改善するかどうかを検討した研究である。セカンダリーアウトカムで更年期症状スコアが検討されている。

妥当か

 抄録中に randomized controlled trialの記載がある。脱落は無く、全例が解析されている。

結果

Three months post-intervention, the treatment group showed significant improvement in climacteric symptoms compared to the control group (81% vs. 53%, respectively, p = 0.045). We did not observe any beneficial effect on metabolic and aging-related biomarkers in the intervention group.

 自己申告による症状スコアの全体的な改善は、エクオール群で81%であったのに対して、プラセボ群では53%であった。ちなみにバイオマーカーには有益な効果を認めなかったようだ。スコア改善のNNTは100/(81-53)=3.6≒4人と計算できる。

PECO

 別のエクオールのRCTを読んでみる。(文献4)

P:160 equol nonproducing, postmenopausal Japanese women who experienced at least 1 hot flush/day
E:10 mg/day S-(−)equol (n=77 women)
C:placebo (n=83 women) for 12 weeks.
O:Participants completed a standardized menopausal symptom checklist and rated five common menopause symptoms by a visual analog scale at baseline, week 12, and week 18 (6-week postintervention).

 少なくとの1日1回のホットフラッシュを認めるエクオール非産生閉経後日本人女性に対して、10㎎/日のエクオールを12週間投与すると、プラセボを投与する場合と比較して更年期症状が改善するかどうかを検討している。

妥当か

 抄録にrandomly assignedの記載がある。また、One hundred twenty-six women completed the study.とあり、34人が解析から除外されている。ランダム化されたのが160人なので、その割合は決して少なくない。効果判定は注意が必要。

結果

At baseline, daily hot flush frequency was 2.9±2.1 for the S-(−)equol group and 3.2±2.4 for the placebo group. After the 12-week intervention, the S-(−)equol group had a greater decrease from baseline in hot flush frequency compared with the placebo group (−1.9±1.8/day, −58.7%, vs. −1.0±2.0/day, −34.5%, p=0.009). The severity of hot flushes and neck or shoulder muscle stiffness significantly decreased in the S-(-)equol group compared with the placebo group. No changes in clinical parameters or serious adverse effects were reported.

 ホットフラッシュの頻度はエクオール群で58.7%減少し、プラセボ群で34.5%減少した。NNTは100/(58.7-34.5)=4.1≒5人と計算できる。首や肩の筋肉のこわばりのVASはエクオール群で11.9mm減少したのに対し、プラセボ群は1.6mmの減少にとどまった。

 脱落が多く、ITT解析されていないので、参考程度と認識しておく。

食事(大豆、大豆飲料)の効果を検討した個別のRCT

PECO

 まず植物ベースの食事(低脂肪のビーガン食と大豆)による介入の研究。5)

P:Postmenopausal women (n = 84) reporting at least two moderate-to-severe hot flashes daily
E:an intervention including a low-fat, vegan diet and cooked soybeans (½ cup [86 g] daily)
C:a control group making no dietary changes.
O:During a 12-week period, a mobile application was used to record hot flashes (frequency and severity), and vasomotor, psychosocial, physical, and sexual symptoms were assessed with the Menopause-Specific Quality of Life questionnaire.

 中等度から重度のホットフラッシュを1日に2回以上認める閉経後女性に対して、植物ベースの食事(低脂肪のビーガン食と大豆86g/日)を投与すると、食事の変更をしない場合と比較して、12週間後のホットフラッシュの頻度や程度、QOLスコアが改善するかどうかを検討している。

妥当か

 抄録にrandomly assignedと記載がある。QOLの指標については84人中、77人が解析されている。ホットフラッシュについては84人中71人が解析されている(15%脱落)。後述の結果によると、この脱落の割合を差し引いたとしてもかなり大きな差を認める。少なくとも結果がひっくり返るようなことはなさそうだ。

結果

In the intervention group, moderate-to-severe hot flashes decreased by 88% (P < 0.001) compared with 34% for the control group (P < 0.001; between-group P < 0.001). At 12 weeks, 50% of completers in the intervention group reported no moderate-to-severe hot flashes at all. Among controls, there was no change in this variable from baseline (χ2 test, P < 0.001). Neither seasonality nor equol production status was associated with the degree of improvement. The intervention group reported greater reductions in the Menopause-Specific Quality of Life questionnaire vasomotor (P = 0.004), physical (P = 0.01), and sexual (P = 0.03) domains.

 中等度から重度のホットフラッシュは植物ベースの食事群で88%減少し、食事の変更をしない群は34%の減少であった。NNTは100/(88-34)=1.9≒2人と計算できる。ちなみに、QOLスコアも血管運動、身体、性のドメインで有意に改善しているようだ。

PECO

 次に大豆飲料の研究。6)

P:101 post-menopausal women, aged 44–63 years
E:a volume of soy drink providing a low (10 mg/day; control group), medium (35 mg/day), or high (60 mg/day) dose of isoflavones for 12 weeks.
C:
O:Cognitive function (spatial working memory, spatial span, pattern recognition memory, 5-choice reaction time, and match to sample visual search) was assessed using CANTAB pre- and post-the 12 week intervention. Menopausal symptoms were assessed using Greene’s Climacteric Scale.

 閉経後女性に対して、大豆飲料をイソフラボン10㎎/日、35㎎/日、60㎎/日換算の量で12週間投与すると、認知機能や閉経症状が改善するかを検討している。

 研究で使われたAlproは日本でも販売されている。海外の販売元のウェブサイトによると、イソフラボンの量は10 mg/100 gということだ。

The average quantity of isoflavones in our soya products is around 10 mg/100 g portion. (https://www.alpro.com/sg/faq)

妥当か

 抄録にrandomly assignedの記載がある。本文に、Intention-to-treat analysis was also performed including all participants randomised at baseline and did not change the primary outcome findings.とあるので、ITT解析は行って結果が変わらないということだ。脱落は14人(12%)いる。あまり鵜呑みにしない方がよさそう。a total of 101 women completed the study and were included in the final analysis

結果

No significant differences were observed between the groups for any of the cognitive function outcomes measured. Soy drink consumption had no effect on menopausal symptoms overall; however, when women were stratified according to the severity of vasomotor symptoms (VMS) at baseline, women with more severe symptoms at baseline in the medium group had a significant reduction (P = 0.001) in VMS post-intervention (mean change from baseline score: – 2.15 ± 1.73) in comparison to those with less severe VMS (mean change from baseline score: 0.06 ± 1.21).

 認知機能には影響がなかった。前後比較だと精神、血管運動、身体の症状スコアのいずれも低下傾向で、特に、症状が強い群で有意に低下を認めた。これまでの論文同様に、更年期症状には効果があることを示唆している。

 この研究はイソフラボンの量の比較というよりは、投与前後の比較なので厳密にはRCTの結果とはいえない。それでも、豆乳のような飲料が好きなら食生活にうまく取り入れるのも一つの方法であることを示している。

 基本的には、普段の食事が大事だと思う。なんでもサプリというのはあまり好ましくない気がする。必ずしもエクオールの産生につながらないかもしれないが、エクオールを10㎎作り出すには納豆1パック、豆腐2/3丁、豆乳1杯くらいの大豆イソフラボンが必要なようだ。和食と相性が良さそうなので、まずは食事をおいしく楽しくすることを考えたいと思う。(最近スーパーの豆乳コーナーには驚くほどたくさんの種類の豆乳が売っていて驚いた・・・)

 様々なフレーバーの豆乳製品の一部!(特定の商品をお勧めするわけではありません)

キッコーマン 豆乳飲料 いちご
キッコーマン 豆乳飲料 白桃
キッコーマン 豆乳飲料 バニラアイス
キッコーマン 豆乳飲料 チョコミント
キッコーマン 豆乳飲料 フルーツミックス
キッコーマン 豆乳飲料 メロン

参考文献

  1. 飯野香理, et al. エクオールの最新知見. 臨床婦人科産科, 2023, 77.6: 583-589.
  2. 内山成人. 特集 ウィメンズヘルスと栄養素・ サプリメント Ⅱ. 更年期障害 7. S-エクオール. 産科と婦人科, 2023, 90.9: 977-982.
  3. Yoshikata R, Myint KZY, Ohta H, Ishigaki Y. Effects of an equol-containing supplement on advanced glycation end products, visceral fat and climacteric symptoms in postmenopausal women: A randomized controlled trial. PLoS One. 2021 Sep 10;16(9):e0257332. doi: 10.1371/journal.pone.0257332. PMID: 34506596; PMCID: PMC8432832.
  4. Aso T, Uchiyama S, Matsumura Y, Taguchi M, Nozaki M, Takamatsu K, Ishizuka B, Kubota T, Mizunuma H, Ohta H. A natural S-equol supplement alleviates hot flushes and other menopausal symptoms in equol nonproducing postmenopausal Japanese women. J Womens Health (Larchmt). 2012 Jan;21(1):92-100. doi: 10.1089/jwh.2011.2753. Epub 2011 Oct 12. PMID: 21992596.
  5. Barnard ND, Kahleova H, Holtz DN, Znayenko-Miller T, Sutton M, Holubkov R, Zhao X, Galandi S, Setchell KDR. A dietary intervention for vasomotor symptoms of menopause: a randomized, controlled trial. Menopause. 2023 Jan 1;30(1):80-87. doi: 10.1097/GME.0000000000002080. Epub 2022 Oct 16. PMID: 36253903; PMCID: PMC9812421.
  6. Furlong ON, Parr HJ, Hodge SJ, Slevin MM, Simpson EE, McSorley EM, McCormack JM, Magee PJ. Consumption of a soy drink has no effect on cognitive function but may alleviate vasomotor symptoms in post-menopausal women; a randomised trial. Eur J Nutr. 2020 Mar;59(2):755-766. doi: 10.1007/s00394-019-01942-5. Epub 2019 Mar 12. PMID: 30863894; PMCID: PMC7058672.

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