ROCKY NOTEが地域医療を面白くします。

入院中の発熱

はじめに

 入院中の発熱の患者について診察依頼あり。不明熱といっても、悪性腫瘍や膠原病の可能性は相対的に低いだろう。感染症や薬剤、偽痛風などを軸に考えていく。

入院中の発熱のポイントのまとめ

  • アプローチ:感染症(約半数)をまずは検索する。次に非感染性(1/4)の原因を検討する。1)
  • 入院患者の発熱へのアプローチは、外来患者と異なる対応が必要である。がん・膠原病・熱中症の頻度が下がり、「偽痛風」「薬剤熱」の頻度が上がる。入院患者の発熱原因の56%が感染症とされ、「尿路感染」「手術部位感染」「肺炎」「カテーテル関連感染」が多い。4)
  • (院内発熱の7D)Device:CLABSI(central line assoociated blood stream infection)、CAUTI(catheter associated urinary tract infections)、VAP、Decubitus:褥瘡、Debris:胆嚢炎、Diarrhea:CDI、Drug:薬剤熱、DVT/PE:深部静脈血栓症、CPPD:結晶性関節炎(偽痛風)2)
感染症非感染症
肺炎
尿路感染症(腎盂腎炎、前立腺炎)
カテーテル関連血流感染症
蜂窩織炎
褥瘡感染
胆嚢炎/胆管炎
クロストリジウム腸炎
感染性心内膜炎
SSI(手術部位感染)
人工物感染
好中球減少性発熱
薬剤熱
偽痛風
深部静脈血血栓症
輸血/血液製剤
急性膵炎
甲状腺クリーゼ
副腎不全
化学性肺臓炎
血腫吸収熱
腫瘍熱
中枢性発熱
参考;N Engl J Med 2014;370:1198-208. 文献3
  • 感染症はまず肺炎、UTI、SSI(surgical site infection)、CRBSI(catheter related blood stream infection)、CD腸炎の5つをおさえる。1)
  • (入院患者の5大感染症)肺:肺炎・気管支炎・副鼻腔炎、創:創部感染・褥瘡、腸:CDI、尿:腎盂腎炎・前立腺炎、血:血流感染(カテーテル関連)2)
  • (非感染性で確認すべきこと)薬剤熱、輸血製剤投与、偽痛風、血栓・塞栓症、輸血、アルコール離脱、急性膵炎、内分泌(甲状腺クリーゼ・副腎不全)、中枢熱、腫瘍熱、心筋梗塞、出血、中枢性高体温。1)
  • (感染症で確認すべきこと)膿瘍、IE、椎体炎、褥瘡、結核、忘れていないか確認。1)
  • 医療介入(薬物、デバイス、カテーテル、手術創)の関連はどうか検討。1)
  • (カテーテル関連感染症は)所見があれば診断を肯定するのに役立つが、所見がなくても否定には役立たないことが知られている。3)
  • CRBSI なら、かなりの確率で血液培養が陽性になる。CRBSIは俗に「カテ感染」とよばれるが、実はカテ感染ではない。その証拠に大多数の症例ではカテ刺入部に感染を示唆する所見がない。つまり、カテの刺入部「そのもの」が感染しているのではなく、そこから入った菌が血流感染を起こす、よって「CRBSI」なのである。5)
  • 膠原病、悪性腫瘍が入院後新規の発熱の原因になることはまれ。1)
  • (薬剤熱の症状)発熱のタイミングは24時間~数ヶ月(平均8日)と多彩であり診断に有用ではない。1)
  • 偽痛風発症のリスク因子は年齢、外傷歴、変形性関節症、ヘモクロマトーシス、低Mg 血症、高Ca血症、甲状腺機能低下症、副甲状腺機能亢進症、ループ利尿薬である。発症部位は膝関節が最も多い。3)
  • 偽痛風は発熱の翌日に関節痛が顕在化してくることもある。4)
  • 前立腺の触診を直腸診で行うことができる。直腸診の診断的価値は近年では以前いわれていたほどではないようだが、院内の前立腺炎を診断するとき、CTでもMRIでも見逃された前立腺炎を見つけることはある。5)
  • ルーチンで行うこと:Top to bottomで身体診察(特にデバイスやカテーテル、創部に注意)、採血・尿検査・胸部X線、培養(血液+疑わしいなら尿、痰)、下痢があればCDトキシン。1)
  • 尿検査、尿培養、胸部X線写真、喀痰培養は、よほど診断に自信がある場合以外は「ルーチン」でとっておいたほうがよい。5)
  • 逆に不要な検査も少なくない。前述の「X線の後のCT」がその一例だ。非定量のカテ先培養も定着菌との区別に寄与しないため、一般には行うべきではない。なかには尿カテーテル先端を切断して培養提出する医師もいる。5)
  • オプション:胸水、腹水があれば穿刺、造影CTで深部膿瘍探し、MRIで椎体炎、硬膜外膿瘍探し、髄膜炎を疑えば腰椎穿刺、不要な異物(Foleyなど)は除去。1)
  • (血液培養で)皮膚常在菌ではない菌が検出され、CRBSI以外のfocusがない場合には、輸液セットの汚染について考慮が必要である。輸液セットの汚染があった場合には、留置針の入れ替えのみでは持続菌血症をきたす可能性が高く、同時に輸液セットすべてが交換されているか確認が必要。6)
  • 鑑別診断は多くはなく、1つ1つ丁寧に探索、除外していけばよい。ある意味、外来患者よりもアプローチはシンプルである。5)

 悩んだ時こそ一つ一つ丁寧に確認、除外をしていくことが重要だ。

参考文献

  1. 土屋勇輔、江原淳. 入院患者の発熱. J hospitalist Network Clinical Question. http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-tokyobay-150107.pdf
  2. Lemon@感染症. 初期研修医が知っておきたい入院患者が発熱した時のアプローチ. Antaa Slide. https://slide.antaa.jp/article/view/44bad531630a4fd8#1
  3. 三河貴裕. 入院患者の発熱に対してどのようにアプローチするか. 【ケーススタディ・第33 回抗菌薬適正使用生涯教育セミナー】. 日本化学療法学会雑誌. 2015. p203-206.
  4. 樋口 大. ⑱入院患者の「発熱」のアセスメント. 総合診療 32巻 9号 pp. 1091(2022年09月)
  5. 岩田健太郎. 特集 感染症 1. 入院患者の発熱ワークアップ-アプローチはシンプルに, 何を確認したいかを明確に. Hospitalist, 2013, 1.2: 159-167.
  6. 坂上真希; 佐藤昭裕. 特集 診療力を上げる! 症例問題集 第 5 章 感染症 症例問題 入院中の患者に生じた突然の発熱. 内科, 2019, 123.4: 781-782.

コメント

error: Content is protected !!
タイトルとURLをコピーしました