はじめに
四肢の痛みを繰り返す小児。痛みがないときにはゼロ。筋痛ではない。これまで受診したすべての医療機関で検査異常を指摘されていない。小児肢端疼痛発作症について調べてみた。
ポイント
- 小児四肢疼痛発作症は、ナトリウムチャネル1.9(Nav1.9)の機能異常によって、乳幼児期から四肢の発作性の疼痛を生じる常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。1)
- 調査上では発症年齢の分布は1―2 歳をピークとしており、平均2.3 歳,中央値2.0歳、最年少は0.0 歳、最高7.0 歳であった。症状が似ている成長痛やファブリー病の疼痛発作に比べるとより若年で始まることが多い。1)
- 乳児期には痛みについて周りに伝えることができず、泣き止まない子どもとして虐待の原因となっている可能性がある。2)
- この疼痛発作は、小学~中学生時に顕著となり睡眠や学校生活にも支障をきたすほどだが、多くの症例は高校生から20 歳頃にかけて軽快する。成人期には完全消失もしくは年に数回程度の軽い痛みがある症例が多いが、中には成人後も子どものときと変わらないという症例が存在する。1)
- 四肢疼痛発作による患者のQOL(quality of life)への影響は大きいものの、思春期以降、発作の頻度は減少するため、多くの成人患者は未診断のままになっていると考えられる。2)
- (疼痛部位)頻度が高いのは膝、足首であるが、前腕や大腿、下腿など関節周囲以外の場所にも生じる。さらには手掌や足底といった場所にも疼痛が出現している。また、症例によっては一発作の中で、痛みの部位が他部位に移動したり、同時に複数の部位が痛んだりすることもある。1)
- (発作頻度)ほぼ全例が周期は不定と回答している。1)
- (発作時間)持続時間も個人差が大きい。発作は,短い時で15分~30 分、長くて半日~1 日、これも同一症例でもそのときによって異なる。1)
- (痛みの性状)深部の鈍く重苦しい痛みの表現が多い。1)
- 典型例では、四肢のうちのいずれか一肢の大関節周囲を中心に発作的な痛みが繰り返し起こり、発作持続時間は15~30分、発作の頻度は10~20回/月である。一方、体幹に痛みは生じない。2)
- 発作性の四肢痛ではFabry病も鑑別すべきである。約5%の家系では遺伝子変異を同定できないが、Fabry病の四肢痛は末端に好発し、一般にNSAIDsは無効である。3)
- 特徴的な現病歴と家族歴だけで診断可能な疾患であるが、思春期以降に四肢疼痛発作の頻度が減少してしまい、身体所見でも血液検査所見でも異常が全く認められないため、多くの成人患者が未診断のままになっている可能性が高い。2)
- (文献3は小児四肢疼痛発作症と誤診された片頭痛の症例が紹介されている)1873年から片頭痛による四肢痛の報告があり、遺伝性の場合もある。(片頭痛による)四肢痛は寒冷刺激で誘発されたり、アロディニアを伴うことがあり、また持続時間も10分から1日と幅があり、歩行困難や睡眠障害を来しうる。一般的には関節は侵されず下肢に多いが、首や胸背部にも認めた報告もあり、頭痛を伴わないこともある。3)
診断基準:厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)
新規の小児期の疼痛疾患である小児四肢疼痛発作症の診断基準の確立と患者調査 | 厚生労働科学研究成果データベース
厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEM
主項目
A. 乳幼児期に始まる反復性の発作性疼痛
B. 疼痛発作は主に四肢に生じる
C. 疼痛発作は月3回以上で3か月以上続く
副項目
1. 家族歴を有する
2. 寒冷、低気圧・悪天候、疲労のいずれかが疼痛発作の誘因となる
3. 疼痛は耐え難く、日常生活上の支障や睡眠障害を伴う
確定例
主項目3つを満たし、SCN9A、SCN10A、SCN11A 遺伝子に変異を認める場合
疑い例
主項目3つと副項目の1. を含めた2 項目以上を満たし、疼痛の原因となる他の疾患を認めない場合
- 今のところ疾患特異的な治療は確立されていない。アセトアミノフェン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、アスピリンなどの鎮痛薬を頓用で使用する例が多い。1)
- 患部の温めは痛みの軽減が図られる。1)
まずは想起できることが重要。そのうえで、数多くある鑑別疾患を一つ一つ除外する必要がある疾患だ。
参考文献
- 野口篤子. 小児四肢疼痛発作症の臨床的特徴. 小児保健研究. 第82巻第3号,2023.
- 戸﨑 凪映, 岡田 英之, 宇野 嘉弘, 池田 貴英, 加藤 あや香, 加畑 理咲子, 奥田 裕子, 原田 浩二, 小泉 昭夫, 森田 浩之, SCN11A変異が認められた小児四肢疼痛発作症の1家系, 日本内科学会雑誌, 2022, 111 巻, 1 号, p. 89-95.
- 田村弘樹, 小島淳平, 野田和敬, 上原孝紀, 生坂政臣. 発作性の四肢痛を主訴に受診した18歳女性. 日本医事新報 (5239): 1-2, 2024.
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