はじめに
20代。繰り返す発熱。高度の炎症所見。四肢の発赤、解熱時に手の皮膚の落屑あり。皮膚感染症の治療中。手の落屑というのが情報の価値としては高いと思う。小児だったら川崎病を真っ先に思い浮かべそう。皮膚感染症の治癒とともに発熱は消失。今回は、Toxic Shock Syndrome (TSS)や猩紅熱のような外毒素を産生するような細菌感染症が関連したと考えた。
関連しそうな論文を読んで、重要そうなところをまとめておこうと思う。
皮膚の落屑を伴う感染症をおこしうる疾患のポイントのまとめ
文献1は感染性粉瘤を契機に発症したtoxic shock syndrome(TSS)の報告。
- 感染性粉瘤でもTSSが発症する可能性がある。1)
- 感染症や薬疹などが鑑別にあげられる。1) →猩紅熱、麻疹、伝染性単核球症などが挙げられている。
- 血液および咽頭液培養は陰性で、TSST-1毒素産生能陽性だった。1)
- TSSの誘因別頻度は、石川らによると手術後19.3%、分娩後・産褥期16.9%、熱傷8.4%、タンポン使用後7.2%、皮膚感染症6.0%、その他・原因不明50.1%と報告している。1)
文献2はブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)の報告。
- ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群は、黄色ブドウ球菌の産生するα-toxinや、dermonecrotoxin などの酵素の他に、exfoliatinという一種の菌体外毒素が血中に入り、全身性に、有痛性、猩紅熱様のびまん性潮紅、大葉性の皮膚剥離、ニコルスキー現象などの独得な中毒性皮膚反応を併発する疾患で、病巣から高率に検出されるファージⅡ群71型黄色ブドウ球菌が主原因と考えられている。2)
- 強い掻痒を伴う紅斑をもって発症し、躯幹の落屑や紅斑部の摩擦痛、口囲鼻腟周囲の皮膚炎は非常に軽く、5 日間で軽快退院したが, 退院後5日頃より、手指手掌の落屑を認めた。2)
文献3は溶連菌感染症のまとめの文献。
- 小児急性咽頭炎の主要な原因微生物であり、その他、伝染性膿痂疹、蜂窩織炎、丹毒、激症型A群連鎖球菌感染症などの原因菌となる。3)
- 外毒素による非化膿性合併症には猩紅熱と毒素性ショック症候群がある。免疫反応による非化膿性合併症として溶連菌感染後急性糸球体腎炎(poststreptococcal glomerulonephritis: PSAGN)と、抗菌療法の進歩によって極めてまれにはなったが、急性リウマチ熱(acute rheumatic fever: ARF)がある。3)
- 猩紅熱は溶連菌の外毒素である発赤毒素による発疹性疾患である。発疹は咽頭炎発症の翌日に発生することが多く、頸部から体幹・四肢に拡がるびまん性の微細な丘疹状紅斑(sandpaper-like)となる。発疹は腋窩・鼠径などの皮膚のしわの部分で発赤が増強し、同部位に点状出血をみとめる。顔面では口囲蒼白となる。発疹は数日で消退傾向となり、爪周囲・手掌・足底に落屑をみとめる。3)
- 抗ストレプトリジンO抗体(anti-streptolysinO: ASO)や抗ストレプトキナーゼ抗体(antistreptokinase: ASK)は、感染後1~2週後から上昇し、1~2ヵ月後にピークに達したのち数ヵ月間は高値を維持する。このため,溶連菌性咽頭炎の急性期診断には有用でなく、ARFやPSAGNの症例において、溶連菌の先行感染を証明することに用いられる。なお、溶連菌の保菌者では上記抗体は上昇しない。3)
外毒素のような要素が、患者の症状や所見に影響すると考えると、不思議な症状が合理的に説明できることがあるのではないだろうか。
参考文献
- 服部佐代子, et al. 特集 外国語で表現されやすい皮膚病 臨床例 感染性粉瘤より発症した toxic shock syndrome. 皮膚病診療, 2017, 39.2: 147-150.
- 柳澤啓子; 渡辺言夫; 緒方幸雄. ファージ I 群 52 によるブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群の 1 例. 杏林医学会雑誌, 1982, 13.1: 61-65.
- 佐藤厚夫. 溶連菌感染症. 月刊地域医学, 2023, 37.1: 17.
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