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脊髄症(頚髄症、胸部脊髄症)の高位診断

はじめに

 胸部脊髄症の患者を診察。高位診断の目安について勉強してみた。ついでに頚髄症の高位診断も復習する。

頚髄症

  • 脊髄は横断面でみたときに中央部の灰白質と周囲の白質という異なる組織で構成されていることと、頚椎部での脊椎・脊髄髄節間に高位のズレがあることを理解する。1) →椎体の高位と脊髄の高位がずれている。
  • 例えば脊髄円錐から馬尾に移行する部位がL1前後であるということは国家試験でも勉強しますが、これも椎体と脊髄の高さにずれが生じる結果です。2)
  • 頚髄症の初発症状は、通常手指のしびれである。両手同時のことがあるが、左右いずれかに出て、まもなく両側性となる例が多い。しびれの部位は移動せず日によって異なることはない。移動するのであれば、頚椎疾患以外を考える必要がある。続いて、手指のもつれ、箸使い、書字、ボタンはめが困難といった手指の巧緻障害が現れる。1) →神経根症ではしびれが午後~夕方に強いことが多い。2)
  • 神経根症と違う点は通常疼痛は伴いません。2)
  • 病変の拡大につれて、足のひきずり、もつれといった痙性歩行が出現し、さらに排尿障害が加わる。下肢の感覚障害は、しびれではなく、冷える、ほてる、風呂の湯が普段より熱く、あるいは痛く感じられるといった温度覚の異常が自覚されることがある。1)
  • 実際の臨床では手指の異常感覚→手指の巧緻運動障害→下肢痙性による歩行障害という経過をたどることが多いとされています。2)
  • 一般的に頸椎領域では椎体と脊髄の高さが1.5個分ずれます。2) →「椎体高位」はC5/6でも、「脊髄高位」はC7 (=5.5 + 1.5=7)という例が示されている。
  • C7以上の脊髄症の診断にはHoffmann反射、高位診断には感覚障害の範囲が重要。3)
  • 責任椎間板高位の診断指標 1)2) (文献1と2をもとに作表)
頚椎症性脊髄症
責任椎間板
C3/4C4/5C5/6
障害される髄節C5C6C7
腱反射上腕二頭筋 腱反射 ↑ 100%上腕二頭筋 腱反射 ↓ 63%上腕三頭筋 腱反射 ↓ 85%
筋力低下三角筋↓上腕二頭筋↓上腕三頭筋↓
知覚障害上肢全体 58%手関節以遠 68%前腕尺側、母指を除いた尺側4 指 96%

胸部脊髄症

  • 胸部脊髄症では感覚障害が下肢末梢に始まるので発症初期にはその最頭側縁が障害髄節高位を示さない。また、感覚障害自体もpin prickで細かに調べないとその上縁を見誤る。さらに、椎間板に相対する髄節高位、体表感覚における支配髄節の指標も報告者によって差がみられる。しかし、T10/11椎間より頭側では下肢の腱反射異常、筋力低下が髄節診断の手掛かりとならないため、高位診断を感覚障害に頼らざるを得ない。4)
  • 感覚障害から高位診断を行う際には、2髄節程度のずれを見込んで診断する必要がある。T11/12椎間にL1~L2髄節が、T12/L1椎間にS1髄節が相対している例が多いと思われる。4)
  • 腱反射、筋力、知覚障害の椎間の頻度4)
 腱反射筋力低下知覚障害
T10/11より頭側PTR↑ 79%
ATR↑ 70%
PTR↑ATR↑ 66% Babinski (+) 60%
Quad 40%
TA 40%
Gastro 32%
尾側  2髄節以内 60% 尾側  4髄節以内 70%
T11/12PTR↑ 75%
ATR↑ 65%
PTR↑ATR↑ 60% Babinski (+) 50%
Quad 25%
TA 50%
Gastro 15%
頭尾側  2髄節以内 79%
T12/L1PTR→ 50%
ATR↓ 70%
PTR→ATR↓ 50% Babinski (+) 10%
Quad 30%
TA 50%
Gastro 60%
頭尾側  2髄節以内 75%
  • 下位胸椎部では脊髄円錐の高位によって、椎間板に相対する髄節高位が変化しうる。また、腰膨大では髄節の頭尾側長が短く。馬尾も存在するため、椎間板高位ごとに神経学的所見の特徴を述べることは危険でもある。4)

 とにかく、感覚障害の部位、運動機能の評価、反射の異常などをしっかりと評価することが最も重要。症状が進行していないか、日常生活に影響していないかを確認することも必要。そのうえで、画像を評価したい。身体所見だけでは正確な評価が難しいこともあることも知っておくべき。

参考文献

  1. 小澤浩司. 脊椎・ 脊髄疾患のニューロサイエンス 神経所見の診かたから再生医療まで 1. 脊椎・ 脊髄疾患の神経学 神経病変の脊髄高位の診断 頚髄症・ 頚部神経根症における障害高位の診断. 整形・ 災害外科, 2017, 60.5: 473-478.
  2. 頚椎症による神経障害. 医學事始. https://igakukotohajime.com/2020/07/25/%E9%A0%9A%E6%A4%8E%E7%97%87%E3%81%B8%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%81/
  3. 大角倫子ら. 今すぐ使える“上肢のしびれ”早わかり診療ポイント. https://www.slideshare.net/slideshow/ss-154025706/154025706
  4. 後藤伸一, et al. 特集 脊椎脊髄病学最近の進歩 (第 30 回日本脊椎脊髄病学会より) 胸部脊髄症の神経学的高位診断の検討. 臨床整形外科, 2002, 37.4: 495-498.

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