はじめに
原因不明のC-reactive protein(CRP)上昇を主訴に紹介される患者がしばしばいる。疾患の検索が一通り終わった後、ありそうもない疾患を探し続けるより、肥満に介入するのが合理的な場合もあると思う。ただ、このようなカテゴリーの患者はなかなか指導がうまく機能しないことも多い気がする。
いずれにしても、今回は肥満・過体重とCRPの関係を調べた論文のいくつかを読んでみることにする。
肥満とCRP
文献1と2は米国のデータ。
- ヒトの脂肪組織は炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン 6 を発現および放出し、過剰な体脂肪を持つ人に低度の全身性炎症を引き起こす可能性がある。1)
- BMI が増加すると、男性と女性の両方で CRP レベルの上昇 (≥0.22 mg/dL) の有病率が増加した。1)
- しかし、BMI の増加に伴い、臨床的に上昇した CRP レベル(>1.00 mg/dL) の有病率が増加したのは女性だけで、その有病率は正常体重の女性では 4.0% (95% CI、3.3%-4.8%)、太りすぎの女性(BMI 25-29.9 kg/m2)では 7.7% (95% CI、6.4%-9.4%)、肥満の女性(BMI ≥30 kg/m2)では 20.2% (95% CI、18.1%-22.5%) であった。1)
- 米国の早期中年成人の全国代表サンプルにおける、CRP の幾何平均 (mg/L)(→単位に注意!) 2)
女性 | 男性 | 合計 | |
正常/低体重(BMI<25) | 0.85 | 0.85 | 0.85 |
太りすぎ(BMI 25~29.9) | 1.78 | 1.07 | 1.34 |
肥満I(BMI 30~34.9) | 2.82 | 1.7 | 2.13 |
肥満 II (BMI 35 ~ 39.9) | 4.17 | 2.63 | 3.39 |
肥満III(BMI≥40) | 8.33 | 5.32 | 7 |
文献3は日本のデータ。
- BMIによる 肥満 ・非肥満の2群間比較では、男性の非肥満群554.0±539.8 ng/mL (n=661)、肥満群769.4±560.0 ng/mL (n=197)、女性の非肥満群475.7±489.3 ng/mL (n =796)、肥満群754.3±584.1 ng/mL (n=214)と、男女とも肥満群の方が非肥満群よりhs-CRPが有意に高値であった(男女ともp<0.0001)。3)
日本離床学会のホームページに肥満とCRPについて一問一答がある。非常に分かりやすい。
- (CRPが上昇するのは)ズバリ、脂肪細胞がアディポサイトカインという、炎症誘発物質を放出するためです。メタボという非生理的状況を侵襲と捉え、正常な状態に戻そうとする防御反応のひとつとも考えられます。4)
洋の東西を問わず、肥満でCRPは上昇すると考えてよさそうだ。その次の肥満改善のステップをどうするか。プライマリケア医の腕の見せ所(だといいな)。
幾何平均
文献2で幾何平均が出てきたので、復習しておこうと思う。一般に、経年変化を表現する代表値として有用だが、この論文のように、ある一時点での集団の代表値に算術平均や中央値以外はあまりなじみがないように思う・・・。
例えば、1年目に体重が5%増えて、2年目には10%減って、3年目に2%増えたら、
幾何平均=
=0.9878
なので、1年あたり1.22%減量していたということがわかる。増減はあるが、1年あたりに均すことで、理解しやすい数値となる。
一方で、ある集団に含まれる個々のデータに幾何平均を適応するとどうなるだろうか。どうやら外れ値の影響を受けにくくなるようだ。つまり中央値に近くなる。
例えば、10人の体重(kg)が [60, 65, 70, 75, 100, 50, 65, 65, 75, 120] だとする。算術(相加)平均、幾何平均、中央値は以下のようになる。
算術平均: 74.50 kg
幾何平均: 72.28 kg
中央値: 67.50 kg
中央値はデータの極端な値を完全に無視して、外れ値の影響を最小限に抑えるが、幾何平均は外れ値の影響を緩和しつつ、全てのデータポイントを考慮している。こういう折衷案的な代表値なのだろう。少しだけ幾何平均が身近になった気がする。
参考文献
- Visser M, Bouter LM, McQuillan GM, Wener MH, Harris TB. Elevated C-reactive protein levels in overweight and obese adults. JAMA. 1999 Dec 8;282(22):2131-5. doi: 10.1001/jama.282.22.2131. PMID: 10591334.
- McDade TW, Meyer JM, Koning SM, Harris KM. Body mass and the epidemic of chronic inflammation in early mid-adulthood. Soc Sci Med. 2021 Jul;281:114059. doi: 10.1016/j.socscimed.2021.114059. Epub 2021 May 21. PMID: 34091232.
- 服部恵美; 安藤富士子; 下方浩史. 肥満と高感度 C 反応性蛋白 (hs-CRP)―地域住民における性・年代別の解析―. 日本未病システム学会雑誌, 2009, 14.2: 293-295.
- 日本離床学会ホームページ. Q&A Vol.276 【肥満でCRPが上昇する理由】. https://www.rishou.org/activity-new/qa/qa-vol-276#/
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