はじめに
低カリウム血症で一見、やせがあり栄養状態があまり良くなさそうな患者。下剤や利尿薬、漢方薬などを服用している。服薬が確認できればいいが、申告されていない場合も多いと思う。医師患者関係を維持し、対症加療で粘りながら根本的問題解決を図りたい。
偽性Bartter症候群のポイントのまとめ
- 血液生化学検査上は、Bartter症候群と鑑別できないことから、このような病名となった。6)
- 家族性Bartter症候群の一部はHenleの太い上行脚管腔膜側に存在するNa-K-2Cl共輸送体の遺伝子異常による機能低下により発症することが明らかとなっており、ループ利尿薬は、このNa-K-2Cl共輸送体の阻害薬であることから、当然この乱用はBartter症候群と鑑別不可能な病態を呈する。6)
- ループ系降圧利尿剤であるフロセミドを長期服用するとBartter症候群と同様の症状が出現することがあり、偽性Bartter症候群として広く知られている。3)
- 偽性バーター症候群は、慢性かつ高度に体液量が減少した病態で、体液確保のためにレニン・アンジオテンシン系が活性化されアルドステロン分泌が増加した状態(続発性アルドステロン症)に特徴的な検査所見で定義される。1)
- 病態生理:Kの摂取不足(神経性食欲不振症)、消化管からのK喪失(慢性の下痢、嘔吐、下剤の長期投与、腎からのK喪失、利尿剤の投与)などが原因で低K血症、アルカローシス、高レニン血症、高アルドステロン血症、AII昇圧反応性低下を生ずる。低K血症が長期になると、腎傍糸球体細胞の過形成も認められる。5)
- 神経性食欲不振症、または下痢や嘔吐、下剤や利尿薬の連用の際にみられる慢性的な循環血液量の減少に伴う続発性アルドステロン症は、Bartter症候群にきわめて類似した症候を呈することが知られ、体液量減少を引き起こす誘因の明らかなものは偽性Bartter症候群と呼ばれている。4)
- 本症候群は、神経性食欲不振症などの摂食障害や、ダイエットに対して病的な関心をもつ人に多くみられる。1)
- 下剤の乱用、慢性下痢、神経性食思不振症などが原因として挙げられる。3)
- 偽性Bartter症候群の原因 7)
カリウムやクロールの喪失
①腎からの喪失
・利尿薬の乱用
・甘草を含む漢方薬(小柴胡湯、桂枝加苓市附湯、当帰飲子、葛根湯、小青竜湯など)の長期服用
・アミノグリコシド系抗菌薬の投与
・プロスタグランジンE1製剤の投与
②腸管からの喪失
・慢性の下痢:下剤の長期乱用、先天性クロール下痢症など
・慢性の嘔吐:神経性食欲不振症などによる頻回の自己誘発性嘔吐、周期性嘔吐症、腸回転異常症など
・胃液の持続吸引
③皮膚からの喪失
・嚢胞性線維症
カリウムやクロールの摂取不足
・神経性食欲不振症
・アルコール中毒
・極端な偏食 - 体液量不足なので高アルドステロン血症があっても高血圧は認めず、逆に明らかな起立性低血圧を示すことも少なくない。1)
- もともと体液量が少ないので、感冒時の嘔吐や下痢など、体液をさらに失うような症状が出現すると、脱水や低K血症によって容易に体調を崩し来院する。1)
- 体液量減少の原因としては、長期にわたる食塩摂取量の不足および体液の喪失、たとえば繰り返す嘔吐や下痢、下剤の濫用、そして冒頭で紹介した患者が知らずに摂取していたフロセミドなどの利尿薬の濫用が知られている。1)
- 交感神経興奮時には、β受容体刺激によるレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系が亢進し、血清カリウム濃度低下を増悪させた可能性がある。3)
- 偽性バーター症候群における尿電解質検査は、利尿薬服薬の可能性を推定するのに役立つ。体液の腎外性喪失を疑わせる尿電解質所見(尿ナトリウム/カリウム比の低値)を認めず、また分別クロール排泄率(FECl)の不適切な高値。1) →尿ナトカリ比は最近注目されている指標のようだ。基準値ははっきりしないが、3~4程度が宮城県登米市の特定検診のデータで示されている(「尿ナトカリ比」とは? 自分でできる高血圧対策! https://www.nhk.or.jp/kenko/atc_1488.html)。
- おそらく、健常人がフロセミドを長期服用しても高度なK欠乏は起こらない。しかし、歪んだボディイメージをもち、病的なダイエットを実行している人の口に入ると本症候群を引き起こし、さらに高度なK欠乏によって周期性四肢麻痺や横紋筋融解症、急性腎不全を発症すると、生命は危険な状態にさらされる。1)
- 一般に偽性Bartter症候群では、長期にわたる低K血症が近位尿細管の空胞変性と尿細管の萎縮、間質の繊維化をきたす、いわゆる慢性低K血性腎症を効率に合併する。4)
- 高率に合併する低K血性慢性間質性腎炎によって徐々に腎機能は低下し、慢性腎不全に陥る例もある。1)
- (偽性ではないBartter症候群の)治療に関しては、一次的病因が不明である現在、根治治療はなく、本症の予後を決定する低カリウム血症持続に基づく腎障害予防と、低K血症アルカローシスに伴う諸症状の軽減が中心となる。2)
- (偽性ではないBartter症候群の治療は)K製剤に加え、本症のプロスタグランジン(PGs)過剰産生説を鑑みインドメサシン、アスピリンで代表されるPGs合成阻害剤、アルドステロン拮抗剤であるスピロノラクトン、アルドステロン非依存性のNa-Kポンプ活性抑制剤であるトリアムテレンなどのK保持性利尿剤が使用されるが、いずれも単独投与では低K血症を完全に正常化することは困難である。2)
- 偽性Bartter症候群の場合、薬剤、嘔吐をやめることが根本治療であるが、一般には非常にむずかしい。カリウム製剤、カリウム保持性利尿薬の経口投与を行う場合もある。6)
- 原疾患の治療が第一である。特発性浮腫や美容のため利尿剤や下剤を常用しているものでは、精神科的療法を必要とする場合もある。対症療法として、Kの豊富な食物の摂取、KCl剤(80~300 mEq/日)、スピロノラクトン(50~500 mg/日)、インドメサシン(18~200 mg/日)、トリアムテレン(60~400 mg/日)などの単独または併用投与が行われる。5)
- 病因の除去が基本である。ただし、除去を行っても低カリウム血症の改善には時間を要することが多い。神経性食欲不振症などの摂食障害、やせ願望による利尿薬・下剤の乱用では薬剤への依存性が高く、精神科との連携が重要となる。7)
腎臓内科や精神科、内分泌科などの医師との協力も時に必要になると思う。ただ、最も重要なのは、定期的に受診を続けてもらい、継続的に関わっていくことのようにも思う。安易に行動変容させるなんていうのは半分医療者のエゴだと自覚した方がいい。時間を有効に使うことで、患者自身の人生にとって医療者のかかわりが必要だと思ってもらえるように努力したいと思う。
参考文献
- 沼部敦司. 偽性バーター症候群. Medical Technology 32(3): 231-232, 2004.
- 佐々木悠. バーター症候群の治療. 臨牀と研究 67(12): 3831-3832, 1990.
- 藤井裕奈, 澤純平, 太田龍一, 笠芳紀, 服部修三. 偽性Bartter症候群における脱水による低カリウム血症の遷延の1例. 雲南市立病院医学雑誌 14(1): 27-30, 2018.
- 沼部 敦司, 緒方 徳子, 阿部 實, 高橋 正樹, 高野 幸一, 荒川 勝, 石光 俊彦, 家入 蒼生夫, 松岡 博昭, 八木 繁. Furosemide混入健康茶の飲用による偽性Bartter症候群の1例. 日本腎臓学会誌. 2003年 45 巻 5 号 457-463
- 藤田敏郎. pseudo Bartter症候群. 日本臨牀 45(春季増刊): 919-920, 1987.
- 林松彦. pseudo-Bartter syndrome (偽性Bartter症候群). 診断と治療 86(suppl): 585-585, 1998.
- 藤原香緒里, 里村憲一. 偽性Bartter症候群. 小児科診療 79(suppl): 313-313, 2016.
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