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発作性上室性頻拍paroxysmal supraventricular tachycardia:PSVT

はじめに

 循環動態が安定した心拍数180/分のPSVTの患者。心房粗動や洞性頻脈と紛らわしい場合でも、とりあえずPSVTの治療をすればあまり大きな問題なないケースが多いように思う(治療すると細動波や粗動波がはっきりする)。やっぱりバルサルバ法は無効・・・。ワソランとATPどちらを使うか。ガイドライン的にはATPだが、使い慣れている薬剤であることも重要な要素と思う。

 発作性上室性頻拍(PSVT)について復習しておく。

発作性上室性頻拍のポイントのまとめ

  • 頻脈性不整脈を見たら、まずは血行動態が安定(stable)か不安定(unstable)かを判断します。4)
  • (緊急群)いしき心配(い, 息切れ; し, ショック; き, 胸痛; いしき, 意識; 心, 心筋梗塞・心不全; 配, 肺水腫)5)
  • narrow QRS regular tachycardiaは心拍数が上がるほど拡張期が短縮し、結果としてQRS波の前後にP・T波が埋没するため心電図診断が困難となります。2)
  • QRS内やQRS直後に逆行性のP波が確認できる場合もある。1)
  • AVNRTは循環器疾患の既往に関係なく幅広い年齢層で認められ、運動やカフェイン・アルコール類の摂取で誘発されます。2)
  • (PSVTは)若年で、基礎疾患がない患者に多い。4)
  • PSVTの場合、心拍数は150~200 回/minであることが多い。1)
  • 典型的な心拍数は180~200回/分ですが、高齢者では内服薬による徐脈作用で心拍数が150回/分前後といった少々「遅い」AVNRTも目にします。2)
  • 特に心拍数が150回/分にピタリと固定された際、心房粗動や心房頻拍の2:1房室伝導も考慮しなければなりません。2)
  • 可逆的に房室伝導を遮断するATP急速静注が診断・治療目的で幅広く用いられます。2)
  • Δ波はKent束の存在を示唆し、①AVRTを起こしうる点と、②Kent束を介した1:1順行性房室伝導で心房粗動・細動から心室細動を起こしうる点の2つで珍しいながらも非常に重要です。β遮断薬などでRate Controlを試みる前に、必ず過去の洞調律時心電図でΔ波がないか確認しましょう。2) →PSVTでなく、Af+Δ波だったらATPやベラパミルは禁!PSVTをAfとしっかりと区別する必要あり。
  • 上室頻拍(SVT)であっても、QRS幅が広くなる伝導障害がプラスされると、外見上「wide QRS tachycardia」を呈する事実は知っておいて損はない。3)
  • ATPは5~10mgを急速静注し、効果がなければ最大20 mgまで使用可能です。投与のポイントは「急速静注」すること。4)
  • 初回投与は10mgを急速静注、それでも止まらなければ。20㎎を2回まで追加投与可能。6) →アデホスLコーワ注は10㎎、20㎎、40㎎のアンプルあり。
  • 気管支喘息があれば禁忌(気管支れん縮作用)。6)
  • 一般的には、生食とATPが入った別々のシリンジをルートにつなぎ、それぞれ三方活栓を操作してATPを生食で急速に後押しするという方法がとられますが、操作が煩雑で間違えやすいです。ATPは生食と混注しても安定しています。操作が簡単であるため、1つのシリンジにATPと生食を入れ、それを急速静注する「single syringe法」を筆者はよく使用しています。4)
  • ATPは気管支攣縮作用があるので、気管支喘息の既往がある場合には使用を避けましょう(必ず確認すること!)。そして、マイナーな副作用として顔面紅潮や呼吸困難、頭痛、嘔気嘔吐、不安や恐怖心の出現などがあるため、これらが出現する可能性を事前に話しておきます。4)
  • ATP急速静注を避けるべき主な状況は、①急性冠症候群やコントロール不良で有症状の冠動脈多枝病変、②既知の高度房室ブロック、③閉塞性肺疾患(気管支喘息や肺気腫)の急性増悪時、④非頻脈時の心電図でΔ波を認めるの4つです。2)
  • ATP急速静注で頻拍停止中に異所性P波や心房粗動波が顕在化し、AVNRT以外の上室性不整脈を診断することもできます。2)
  • ATPでも止まらない頑固なPSVTには、Ca拮抗薬を使用します。房室伝導を抑制する目的で、ベラパミルやジルチアゼムの出番です。PSVT停止率はATPとおおむね同等のようです。これらの薬剤は緩徐に投与することがポイントです。ベラパミルは1 mg/分、ジルチアゼムは2.5 mg/分の速度で投与することで、効果はそのままで低血圧発生率を1%未満に抑えられます。よって、ベラパミル5 mgを5分、ジルチアゼム10 mgを4分かけて投与することで安全性を担保します。4) →ワソラン注のアンプルは5㎎
  • (緊急度高い場合)cardioversion 50~100J 5)
  • WPW症候群のPSVTならワソランはOK.。しかし、WPW症候群の心房細動には禁忌! 5) →WPW症候群のPSVTならATPもいい。(もちろん血行動態が安定の場合)
  • 帰宅させる前に、特に急性冠症候群(ACS)でないかどうか、洞調律復帰後の心電図波形の評価は忘れないようにしてください。4)

 プライマリ・ケア医が関わるのは、頻拍に対する薬物治療を行う場合がほとんどだろう。後日カテーテルアブレーションで根治を目指すのかどうかを専門医と相談してもらうことになる。ちなみに、文献7では、カテーテルアブレーションの効果は96.1%と紹介されている。患者のライフスタイルに合わせて専門医への相談を検討してもらうとよい。

参考文献

  1. 和久隆太郎, 菊地研. 突然動悸を訴えたPSVT(発作性上室頻拍)の心電図. Emer-Log 36(6): 801-802, 2023.
  2. 津島隆太. 動悸:上室性頻拍. レジデントノート 23(1): 61-70, 2021.
  3. 杉山裕章. 第015回 心室頻拍? 上室頻拍? “急ぐべき” 頻拍の見分け方. 日本医事新報 (5008): 9-10, 2020.
  4. 徳竹雅之. [第3回] シリンジ1つで頻脈対応 魔法のようなPSVTマネジメント. 2022.08.08 週刊医学界新聞(レジデント号):第3481号. https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3481_04
  5. 寺澤秀一, 林寛之. 研修医当直御法度 第7版. 東京. 三輪書店. 2022.
  6. 聖路加国際病院内科チーフレジデント編. 内科レジデントの鉄則 第3版. 東京. 医学書院. 2018.
  7. Blomström-Lundqvist C, Scheinman MM, Aliot EM, Alpert JS, Calkins H, Camm AJ, Campbell WB, Haines DE, Kuck KH, Lerman BB, Miller DD, Shaeffer CW, Stevenson WG, Tomaselli GF, Antman EM, Smith SC Jr, Alpert JS, Faxon DP, Fuster V, Gibbons RJ, Gregoratos G, Hiratzka LF, Hunt SA, Jacobs AK, Russell RO Jr, Priori SG, Blanc JJ, Budaj A, Burgos EF, Cowie M, Deckers JW, Garcia MA, Klein WW, Lekakis J, Lindahl B, Mazzotta G, Morais JC, Oto A, Smiseth O, Trappe HJ; European Society of Cardiology Committee, NASPE-Heart Rhythm Society. ACC/AHA/ESC guidelines for the management of patients with supraventricular arrhythmias–executive summary. a report of the American college of cardiology/American heart association task force on practice guidelines and the European society of cardiology committee for practice guidelines (writing committee to develop guidelines for the management of patients with supraventricular arrhythmias) developed in collaboration with NASPE-Heart Rhythm Society. J Am Coll Cardiol. 2003 Oct 15;42(8):1493-531.

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