はじめに
運動で改善する腰痛患者。脊椎関節炎も鑑別に挙がった。脊椎関節炎の復習をしておく。
脊椎関節炎のポイントのまとめ
- 脊椎関節炎(spondyloarthritis, SpA)は、主に脊椎、胸鎖関節や仙腸関節といった体軸関節や手指関節などの末梢関節に炎症を来し、ぶどう膜炎、乾癬、炎症性腸疾患といった関節外症状、HLA-B27との関連性などの共通点がみられる疾患群の総称である。1)2)3)
- これらSpAの主病態は腱や靭帯の付着部炎。2)3)
- 若年男性に発症しやすいとされています。1)
- ヒト白血球抗原の一つであるHLA-B27という遺伝子のタイプに関連すると考えられています。1)
- SpAは、HLA-B27の保有率が0.3%と極端に少ない日本ではその有病率も少なく、そのため臨床経験が少ないことから適切に診断、治療されてこなかった歴史があった。2)
- 最近では体軸関節が優位な病変となる体軸性脊椎関節炎と、末梢関節がおもな病変となる末梢性脊椎関節炎に分類されることがある。3)
- 体軸性脊椎関節炎には、強直性脊椎炎ならびにX線基準を満たさない脊椎関節炎があるが、これらはほぼ同一の疾患と考えられているため、体軸性脊椎関節炎としてまとめられることも少なくない。3)
- 末梢性脊椎関節炎は、乾癬、炎症性腸疾患、あるいは特定の細菌感染症に伴ってみられ、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎、反応性関節炎などとよばれ、さらにはどれにも当てはまらないものは末梢性分類不能脊椎関節炎とされる。3)
- SpAには強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis, AS)、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎(non-radiographic axial SpA, nr-axSpA)、乾癬性関節炎(psoriatic arthritis, PsA)、反応性関節炎(reactive arthritis, ReA)、ぶどう膜炎関連関節炎(uveitis associated spondyloarthritis)、炎症性腸疾患関連関節炎(inflammatory bowel disease associated spondyloarthritis)またはそれらのどれにも分類されない分類不能脊椎関節炎(undifferenciated spondyloarthritis, uSpA)などが含まれる。2)
- 乾癬性関節炎は日本人乾癬患者(50万人前後と推定)の10~15%でみられ、脊椎関節炎のなかでは最も頻度が高い。3)
- ASをはじめとするSpAに特徴的な臨床症状として、1)脊椎・仙腸関節炎による腰背部痛、2)下肢に優位な少関節炎、3)付着部炎、4)指趾炎が挙げられる。2)
- 炎症性腰背部痛(40歳以下で発症し、3ヶ月以上続き、安静で軽快せず運動でむしろ改善する腰痛・背部痛)が脊椎関節症に特徴的な症状の一つです。また手指や肩などの痛みや腫れ、こわばりといった症状も伴います。炎症のため発熱、倦怠感を伴うこともあります。1) →炎症性腰背部痛については後半にまとめ。
- 45歳以上で発症することは稀である。10代から腰痛、股関節痛、坐骨神経痛など非特異的な症状で発症することも少なくない。2)
- 関節炎は下肢に優位とされ、関節リウマチのような多関節炎ではなく、単関節炎または少関節炎のことが多く、股関節や肩関節など体幹に近い大関節に多いが、手関節や足関節などにも時に見られる。2)
- 付着部炎(enthesitis)とは、腱、靭帯が骨に付く部分である付着部に起こる炎症で、本疾患の特徴的症候と言える。アキレス腱や足底腱膜の付着部にしばしば見られる。2)
- 特徴的な症状として、いわゆる指趾炎(dactylitis)がみられることもある。これは、ソーセージ様の手指または足趾の腫脹であり、滑膜炎または腱鞘滑膜炎と区別することは困難とされてきたが、これも付着部炎に類似したものであることがわかってきた。SpAにおける指趾炎の感度は18%、特異度は96%とされる。2) →陽性尤度比は4.5、陰性尤度比は0.85と計算できる。
- 患者さんによっては尿道炎、乾癬、クローン病や潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎といった関節以外の症状がみられることもあります。1)
- 反応性関節炎は以前にはReiter症候群とよばれていた、おもに腸管、尿道の細菌感染後に起こる無菌性関節炎であり、数ヵ月で改善がみられることが多い。3)
- 進行すると関節の動きが悪くなり、背中が曲がらない、首が回りにくいといった症状を呈します。1)
- 物理的な原因による腰痛、いわゆるmechanical painに比べてNSAIDsの有効性が高いという特徴も有する。2)
- 血液検査では、関節リウマチに特徴的なリウマチ因子や抗CCP抗体は陰性で、HLA-B27やCRPが陽性となることがあります。脊椎や仙腸関節、末梢関節などのレントゲンやMRI、関節エコー検査では、骨の変形や炎症がみられることがあります。進行すると靭帯の石灰化により背骨がまるで竹のようにくっついてしまいます。1)
- レントゲンでの脊椎や仙腸関節の変化は症状出現から数年~10年後に現れることが稀でなく、早期に診断することが困難であり、患者会であるAS友の会のアンケート調査によれば、初発症状から確定診断までの平均期間は9.3年、われわれを含む多施設での日本人AS患者の研究でも11年以上である。2)
- 体軸性脊椎関節炎の診断には仙腸関節の単純X線に加えて、MRIで炎症を検出することが重要である。3)
- ASとして分類するよりもSpAとして早期に分類し早期に治療介入することが議論されている。このような背景から2009年にASAS(Assessment of SpondyloArthritis international Society)から体軸性脊椎関節炎の分類基準が作成された。この分類基準のポイントは、脊椎関節炎の特徴として脊椎以外の関節炎、付着部炎、指炎などの症状やぶどう膜炎、炎症性腸疾患などの関節外症状、HLA-B27陽性、家族歴などが含まれていること、レントゲンの他にMRIの所見も含まれたことである。2)
- 体軸性脊椎関節炎のASAS分類基準(2009年)(感度82.9% 特異度84.4%)5)
45歳未満で3ヶ月以上続く背部痛を有する患者で以下を考慮。
仙腸関節炎の画像所見と一つ以上の脊椎関節炎の特徴があるか、HLA-B27陽性と二つ以上の脊椎関節炎の特徴がある場合、体軸性脊椎関節炎と分類する。
<画像所見とは>
1 MRI所見:脊椎関節炎によると考えられる骨髄浮腫や骨炎を伴う仙腸関節の活動性炎症性病変。
2 X線所見:改訂ニューヨーク基準による両側のgrade 2-4あるいは片側のgrade 3-4の仙腸関節炎(grade 0:正常。grade 1:疑わしい変化。grade 2:軽度の変化や小さな限局性の侵食像や硬化像。grade 3:侵食像や硬化像の拡大や関節隙の幅の変化。grade 4:著しい変化や強直)。
<脊椎関節炎の特徴とは>
1 炎症性背部痛:40歳未満での発症、潜行性の発症、運動による改善、安静で改善しない、夜間の痛み、の5項目中4項目存在する場合。
2 関節炎:過去/現在の活動性滑膜炎
3 踵の付着部炎:過去/現在のアキレス腱や踵骨部の足底筋膜の自発痛、圧痛がある場合。
4 ぶどう膜炎:過去/現在の眼科医に確認された前部ぶどう膜炎(虹彩炎や虹彩毛様体炎)。
5 指趾炎:過去/現在に医師によって確認されたもの。
6 乾癬:過去/現在に医師によって確認されたもの。
7 炎症性腸疾患:Crohn病または潰瘍性大腸炎。
8 NSAIDsの効果良好:内服後1~2日後に背部痛が改善する場合。
9 脊椎関節炎の家族歴:姪甥まででの強直性脊椎炎、乾癬、急性ぶどう膜炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患のいずれかを認める場合。
10 HLA-B27
11 CRP高値:背部痛を有しており他の原因が除外されていること。
- 末梢性脊椎関節炎のASAS分類基準(2011年)(感度77.8% 特異度82.9%)5)
関節炎、付着部炎、又は指趾炎が現在あり、以下の一つ以上がある(ぶどう膜炎・乾癬・炎症性腸疾患・感染症の先行・HLA-B27・X線またはMRIで仙腸関節炎)、あるいは以下の二つ以上がある(関節炎・付着部炎・指趾炎・過去の炎症性背部痛・脊椎関節炎の家族歴)。
<前提として以下のいずれかを現在有する>
関節炎: 脊椎関節炎に合う末梢関節炎。通常は非対称で下肢の関節が多い。
付着部炎: 医師によって診断された付着部炎。
指趾炎: 医師によって診断された指趾炎。
<以下のひとつ以上がある>
1 ぶどう膜炎:過去/現在の眼科医によって確認された前部ぶどう膜炎。
2 乾癬:過去/現在の医師によって診断された乾癬。
3 炎症性腸疾患:過去/現在のCrohn病または潰瘍性大腸炎。
4 感染症の先行:関節炎/付着部炎/指趾炎の発症1ヶ月以内での尿道炎/子宮頚管炎や下痢。
5 HLA-B27
6 画像上の仙腸関節炎:X線で改訂ニューヨーク基準による両側のgrade 2-4あるいは片側のgrade 3-4の仙腸関節炎。あるいは、MRIで脊椎関節炎によると考えられる骨髄浮腫や骨炎を伴う仙腸関節の活動性炎症性病変。
- 実際にこのASAS分類基準を用いる上で鑑別すべき疾患として線維筋痛症(fibromyalgia, FM)が挙げられる。FMでは腰背部を含めた広範囲に、そして時に付着部に疼痛が出現することがある。実際にFMの診断基準として使用されている圧痛点は多くが付着部やそれに隣接した部位でもあり、それらの疼痛がSpAによる疼痛と混同されやすいからであると思われる。nr-axSpAとFMとの鑑別診断はどちらも容易ではなく、一度の診察、レントゲン撮影などで確定することが困難な場合もある。発症年齢や症状出現のきっかけ、家族歴、関節外症状などに関する十分な問診とともに、NSAIDsを含めた薬剤への反応性、患者の背景にある精神的な状態などから、時間を掛けて鑑別を行っていく必要がある。 2)
- 感染症や悪性腫瘍、加齢性の変化などによる骨の異常や、関節リウマチなど他の免疫疾患との区別が重要です。1)
- 掌蹠膿疱症性骨関節炎(pustulotic arthro-osteitis, PAO)やそれを含むSAPHO症候群は、脊椎や仙腸関節の強直をきたすことから類似した病態が疑われるものの、HLA-B27との関連がないことからSpAには含まれていない。2) →SAPHO症候群:Synovitis(滑膜炎)、Acne(ざ瘡)、Pustulosis(膿疱症)、Hyperostosis(骨化過剰症)、Osteitis(骨炎)の頭文字
- 関節症状に対してはNSAIDs、サラゾスルファピリジン、TNF阻害薬などの投薬、手術療法、リハビリなどの非薬物療法などを行います。関節外症状に対しては、それぞれの部位の専門家と連携し治療を行います。1)
- 治療のどの段階においても、患者に対する教育や運動療法、リハビリテーション、患者会などでの患者同士のつながりなどが必要不可欠である。その他の薬物療法として、NSAIDs、スルファサラジン、副腎皮質ステロイド、生物学的製剤などがある。2)
- 体軸性脊椎関節炎や乾癬性関節炎ではTNF、IL-17/IL-23、JAKなどを治療標的とした分子標的治療薬による治療がおこなわれており、その選択は病態や関節外症状も参考におこなわれ、体軸性脊椎関節炎ではASDAS(強直性脊椎炎疾患活動性スコア)、乾癬性関節炎ではMDA(最小疾患活動性)などを指標することが推奨されている。3)
- 特にCRPが上昇している患者ではNSAIDsの継続投与が骨化進行抑制に特に有用であるとされ、一方CRPが上がっていない患者ではNSAIDs 投与による進行抑制効果はあまり見られないようである。2)
- 抗リウマチ薬(disease modifying anti rheumatic drugs, DMARDs)は、一般にASに対してその有効性のエビデンスはない。唯一スルファサラジンが早期のASの末梢関節病変に効果があるとの報告がある。RAではアンカードラッグとされるメトトレキサート(methotrexate, MTX)はaxSpAの、特に体軸病変には無効である。2)
- グルココルチコイドの全身投与は無効とされ、局所投与、つまり関節内注射や付着部への局所注射は有効とされている。CTガイド下またはエコーガイド下での仙腸関節注射も頑固な仙腸関節痛には有効である。しかし、全身投与(内服、注射)でも症状改善に有効な場合もあり、症状が強い患者では少量内服を(プレドニゾロン換算10mg/日以下)試みても良いと考えられる。2)
- NSAIDsのみではコントロール不良である場合は末梢病変に対しては局所へのステロイド注射またはスルファサラジン内服を行う。しかしそれでもコントロールできない場合、または体軸病変に対しては生物学的製剤(bDMARDs)またはJAK阻害薬を考慮する。通常2種類以上のNSAIDs投与によってもコントロールできない場合にTNF-α阻害薬、IL-17阻害薬またはJAK阻害薬の投与を検討する。2)
- 予後に悪影響を及ぼすため禁煙しましょう。1)
炎症性腰背部痛(Inflammatory back pain:IBP)
- 炎症性腰背部痛(IBP)は、軸性脊椎関節炎(SpA)患者における重要な臨床症状。4)
(1) 運動による改善(オッズ比(OR)23.1)
(2) 夜間の痛み(OR 20.4)
(3) 徐々に始まる(OR 12.7)
(4) 発症年齢が40歳未満(OR 9.9)
(5) 休息による改善なし(OR 7.7)
これらの5つのパラメータのうち、少なくとも4つが満たされる場合、感度が77.0%、特異度が91.7%、検証コホートではそれぞれ79.6%、72.4%であった。
まず、脊椎関節炎を疑うことが大切。診断についてはMRIの施行の閾値を下げたいと思う。
参考文献
- 脊椎関節炎(SpA). 一般社団法人 日本リウマチ学会(JCR). https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/sekitsuikansetsuen/#:~:text=%E7%97%87%E7%8A%B6%E3%83%BB%E6%A4%9C%E6%9F%BB,%E3%82%92%E4%BC%B4%E3%81%86%E3%81%93%E3%81%A8%E3%82%82%E3%81%82%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
- 脊椎関節炎. 膠原病・リウマチ内科 順天堂医院. https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/concerned/disease/disease07.html
- 田村直人. 脊椎関節炎診療のupdate 序. 炎症と免疫 32(1): 37-38, 2024.
- Sieper J, van der Heijde D, Landewé R, Brandt J, Burgos-Vagas R, Collantes-Estevez E, Dijkmans B, Dougados M, Khan MA, Leirisalo-Repo M, van der Linden S, Maksymowych WP, Mielants H, Olivieri I, Rudwaleit M. New criteria for inflammatory back pain in patients with chronic back pain: a real patient exercise by experts from the Assessment of SpondyloArthritis international Society (ASAS). Ann Rheum Dis. 2009 Jun;68(6):784-8.
- 脊椎関節炎の分類 spondyloarthritis (SpA). 大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器・免疫内科学. http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu03-1.html
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