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慢性咳嗽

はじめに

 定義として、おおよそ3週間以上で慢性と急性を分けている。(日本のガイドラインでは3-8週を遷延性咳嗽として、8週間以上を慢性咳嗽としている)。慢性咳嗽の三大原因疾患は欧米では咳喘息、後鼻漏、GERDとされる一方、わが国のガイドラインでは咳喘息、アトピー性咳嗽、副鼻腔気管支症候群が三大原因疾患となっている。

 慢性咳嗽を引き起こし得る疾患についての特徴についてのメモをまとめてみた。

各疾患の特徴とチェック項目

喘息(咳喘息)

  • 夜悪化し、臥位にて増悪(明け方増悪)
  • 一回出るとなかなかとまらない咳
  • 喘息の既往
  • 風邪を引くと咳が長引く
  • 花粉症の既往
  • アトピー性皮膚炎の既往
  • 運動による増悪
  • アルコールの飲用にて出現
  • 乾性咳嗽
  • β2刺激薬や吸入ステロイドに反応

 咳嗽は、おおむね就寝時・深夜や早朝に悪化しやすいが、昼間のみ咳嗽を認める患者も存在する。3) 咳喘息の病態は気管支平滑筋の収縮を特徴とすること。収縮は軽度なので、スパイロでは検出困難。病態から考えるとβ2刺激薬を投与して症状が改善すれば診断できる。日本のガイドライン(咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019、日本呼吸器学会)による咳喘息の診断基準は、①喘鳴を伴わない咳嗽が8週間以上持続。聴診上もwheezeを認めない。②気管支拡張薬が有効。の2項目を満たせば診断できることになっている。スパイロメトリーは偽陽性が33%、メサコリン試験は偽陰性が22%あるとする報告がある。(内容からは少し脱線するが、外来でピークフローを患者にやらせると、結構評価が難しいことがある。ピークフローは原則として立位、3回、最大値で測定する。)

 確定には喘息治療に良好に反応することを確認することが最も重要とされる(気道過敏性試験はプライマリ・ケアでは難しい)。治療の基本は気管支拡張薬と(または)吸入ステロイドである。必要であれば1~2週間の短期の経口ステロイドも投与される。治療に反応しない場合はまず、以下の4つのケースを考える。

  1. 喫煙している
  2. 外来抗原(犬、鳥、ガス、粉塵、カビ、環境の変化など)
  3. NSAIDs使用中(風邪薬、市販薬、他院受診など)
  4. 心不全の関与(労作時息切れ、胸部症状、X線写真)

GERD(逆流性食道炎)

  • 臥位にて増悪(または日中)
  • Ca拮抗薬の有無
  • 運動・体動による増悪
  • 胸焼けや朝方の酸味・苦味
  • 肥満(体重増加)
  • アルコール
  • 喫煙
  • 脂っこい食べ物
  • 食後3時間以内の臥床

 慢性的な咳嗽に加えて、胸焼けや呑酸のような症状がある場合はGERDを考える。2) 必ずしもいわゆる逆流症状を伴わず、咳嗽のみを訴える患者も半数近くいる可能性がある。3) GERDの咳嗽を疑う病歴としては、夜間の寛解(※)と会話、起床時、体動、体重増加に伴う増悪などがある。3) 嚥正確な診断には食道pHモニター行うが、プライマリ・ケアでは難しい。なお、PPIに対する反応性はpHモニタリングなどのGERDの客観的指標とあまり相関しないことが知られているためPPIに反応がないからといってGERDの可能性を完全に除外しないよう注意する。2) 診断については、主にPPIによる治療的診断を行う。PPIによる治療を行っても効果が現れるまでに4-6週間かかる場合もある(早ければ1-2週で効果が出ることもある)。

(※)病態の考え方:体位や時間帯による増悪をどう考えるか(文献4がわかりやすい)

  • GERD咳嗽の発生機序として、1)reflux theory、2)reflex theoryの2つの機序が想定されている。4)
  • (前者は)食道裂孔ヘルニアや亀背を伴うような恒常的なLES圧の低下の状態でより生じやすく、夜間、臥床時に多く、びらん性GERDが多いとされる。4)
  • (後者は)後者は、一過性のLES圧低下(transient lower esophageal sphincter relaxation:TLESR)で生じやすいとされ、胃酸や胃内容物が下部食道の迷走神経受容体を刺激し、延髄孤束核に存在する咳中枢を介して咳反射が誘発される。reflux theoryとは異なり、TLESRが夜間に比し昼間に高頻度に生じることから、咳は日中に多く,非びらん性GERDが多いと言われ、迷走神経反射を介したreflex theoryがGERD咳嗽の主な機序と考えられている。4)

アトピー性咳嗽

 日本のガイドラインに特徴的な病気。咳喘息では起動過敏性が亢進しているのに対し、アトピー咳嗽は咳感受性が亢進している。2) 乾性咳嗽。喘鳴は伴わないが、咽頭のイガイガ感がある。就眠前や夜間、早朝に咳嗽が多い。エアコンやタバコの煙、運動で誘発されやすい。病態を考えるとβ2刺激薬に反応しない。治療の基本は抗ヒスタミン薬。吸入ステロイドも有効とされる。β2刺激薬の吸入でも咳嗽が持続する場合に、抗ヒスタミン薬を投与し、改善が得られれば臨床的にはアトピー咳漱と考えてよいだろう。2) 副鼻腔炎以外では熱が出ることはあまりないので、熱を伴う慢性咳嗽の場合は要注意!(結核や他の感染症も必ず鑑別に入れる!)

感染後咳嗽症候群(PIC、インフルエンザ、マイコプラズマ後等)

  • 臥位にて増悪(布団に入った直後)
  • 一回出るとなかなかとまらない咳
  • インフルエンザの予防接種はどうか
  • 風邪症状から発症しているか
  • 家族内発症はどうか

 感冒が先行すれば最も考えやすい。2週間以上、長い場合には2か月程度持続することもある。2) 我が国での遷延性咳嗽に占める感染症後咳嗽の頻度は35.1%と報告されている。上気道炎から始まって3週間以内であれば鎮咳薬などをトライ。

PND(副鼻腔炎、鼻炎)

  • 咽頭への垂れ込みの自覚
  • 前屈みで悪化する頭痛・頭重感・顔面痛(副鼻腔炎) 2)
  • 花粉症(アレルギー性鼻炎)の既往
  • 副鼻腔炎の既往
  • アトピー性皮膚炎の既往
  • 鼻水
  • 鼻づまり
  • 臥位にて増悪(布団に入って数十分後)
  • double sickning
  • 痰を切るような数回の咳(かーっ・・・ぺ!)
  • 朝起きあがった後に増悪
  • 中鼻道の膿性分泌物
  • 抗ヒスタミン薬への反応

 アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎の頻度は半々ぐらい。1 週間の抗ヒスタミン薬で改善が見られない場合は副鼻腔炎の可能性が増す。

副鼻腔気管支症候群

 副鼻腔気管支症候群は、上気道の慢性副鼻腔炎と下気道の慢性気管支炎、気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎を合併した状態。こちらは鼻汁も喀痰も好中球優位。気管支拡張症は、感染症や関節リウマチなどの膠原病疾患アレルギー性気管支肺アスペルギルス症が病因となることがある。2)

その他

肺炎:発熱、頻脈、X線
間質性肺炎:間質性肺炎の咳轍は乾性咳嗽が特徴。労作時の息切れを伴うことが多い。自分では気づかない場合もあり、家族や友人からみて労作時に息が切れていそうか確認するとよい。2) 見落とされやすい疾患として、間質性肺炎や副鼻腔気管支炎症候群がある。3) 間質性肺炎が見落とされやすい理由として、下肺野の網状影やすりガラス陰影は胸部単純X線では判読が難しいことが一因。3)
肺癌:体重の減少、X線、腫瘍マーカー、細胞診
結核:発熱、寝汗、体重減少、倦怠感、IGRA、喀痰培養、PCR、接触歴、X線
薬剤性(ACE等):服薬歴を確認。ACE阻害薬服用の20%程度は乾性咳漱をきたす。内服開始後数週から数ヵ月で出現し、休薬すると通常数日で、長くても1ヵ月程度で咳が治まる。2)
百日咳:予防接種歴、欧米では湿性咳嗽の約2割が百日咳と言われている。国立病院機構福岡病院のデータによると年長児・成人の持続咳嗽患者における特徴として、咳き込みに夜目覚め(85%)、発作性の咳嗽(80%)、咳が止まらず息苦しい(70%)、咳き込み後の嘔吐(31%)が挙げられている。意外と多いので注意を要する。
COPD(慢性気管支炎):喫煙歴、咳嗽の期間
心因性:成人の心因性咳嗽はまれ
環境因子(化学薬品、粉塵、カビなど):職業、家屋の状況
喫煙:喫煙歴、禁煙トライ(4週間)
心不全:浮腫はどうか、体重はどうか、労作時息切れ(LR(-) 0.03)、頸静脈怒張の有無の確認。夜間呼吸困難の有無。
肺塞栓:胸痛はどうか、心不全症状はないか、酸素飽和度、胸部X線、心エコーなど(胸痛を伴う場合には胸膜炎や咳嗽による筋骨格系の疼痛・疲労を考えるが、発症様式やリスク因子を確認し肺塞栓症、急性冠動脈症候群を見落とさないようにする。2))
過敏性肺臓炎:肺炎の再発歴や特定の時間、場所で咳漱が出現する場合には抗原曝露による過敏性肺炎を考える。抗原因子としては、ペットやその糞尿、羽毛や毛皮、エアコン、加湿器の使用、サウナ、プールなどである。職業歴も大切であり、動物、農業、金属加工、スプレー塗装などにかかわる仕事をしているか確認をしたい。2)
Cough hypersensitivity syndrome:別項目で検討

対応の方針

 十分な問診、バイタルサイン、発熱の有無、胸部X線、採血などの確認を行い、criticalな疾患を除外する。ただ、胸部X線検査が診断に役立つのは7%という報告もあるようなので過剰な検査は禁物。咳受容体の分布から、咳は呼吸器疾患以外に、循環器・消化器・耳鼻咽喉科などでも惹起される。5) 喀痰中の好酸球も咳喘息やアトピー性咳嗽の診断につながるかもしれない。診断がつかない場合は咳喘息を疑ってβ刺激薬の吸入をトライ。吸入ステロイドや気管支拡張薬を外来でチャレンジしてもらってもよい。ステロイドや拡張薬の効果が無い場合は病態から考えて咳喘息は考えにくくなる。次に抗ヒスタミン薬を1週間程度投与してみる。アトピー性咳嗽であろうがアレルギー性鼻炎であろうが、病態を考慮すればある程度の効果が期待できる。短期的であればステロイドや血管収縮薬入りの点鼻薬を併用してもよい。(長期に使用するときはrhinitis medicamentosaに注意!)それでもだめならGERDの治療をトライしてみる。いずれにしても、予想される疾患が幅広いので、まず、系統的な問診と診察と必要十分な検査のうえで治療方針をアレンジして考えていくのが重要であることは言うまでもない。非特異的治療薬(中枢性鎮咳薬)は極力使用せず、病歴や検査に基づく疑い診断に対してその特異的治療を行い、咳が軽快したら確定診断とする戦略は、各国の席診療ガイドラインで採用されている。5)

参考文献

  1. Treatment of chronic cough in adults. UpToDate 14.1
  2. 坂本哲, 志水太郎. 鑑別診断. 治療 104(4): 445-449, 2022.
  3. 清水宏繁, 佐々木陽典. 咳嗽患者にあったら. 月刊薬事 65(6): 1225-1234, 2023.
  4. 金光禎寛. V. 胃食道逆流症 (GERD) による咳嗽. 日本内科学会雑誌, 2020, 109.10: 2124-2131.
  5. 新実彰男. 難治性慢性咳嗽の病態と新たな治療展開. アレルギー, 2021, 70.2: 112-117.

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