はじめに
先日(令和6年3月)の地域循環器診療研究会で取り扱った症例がまさに頭痛が主訴の心筋梗塞だった。この研究会では、sudden square patternでは血管系破綻を考えることや、長引く冷や汗は重篤な病態を想起することの重要性が指摘された。特に致死的疾患を想起した場合には「主訴にこだわらない思考過程」をすることも必要である点も指摘された。研究会の10日後、頭痛が主訴の心筋梗塞の患者を診察した。偶然、症例検討の書籍 4)を読んでいたら似たような症例が報告されていた。これを機会に情報をまとめておく。
ポイントのまとめ
- 急性心筋梗塞は生命に関わる疾患であるにもかかわらず典型的症状からだけでは判断できないことも多く、発症から数日~数か月経過した段階で診断されることもしばしば経験する。1)
- くも膜下出血急性期にST上昇や陰性T波などの心電図異常と同時に心室壁運動の障害を認めることがあるのはよく知られているが、虚血性心疾患の症状としての頭痛はあまり認識されていないように思われる。1)
- (頭痛を主訴にする場合)頭痛の部位は後頭部痛が多いが前頭部~頭頂部さらには側頭部と様々で、頭痛を唯一の症状として来院することがほとんど。1)
- 心臓性頭痛では、労作時に発症する片頭痛様の疼痛が典型的であるが、まれに安静時の雷鳴様頭痛の場合もある。2)
- (国際頭痛分類による心臓性頭痛の解説)片頭痛様の頭痛が、常時ではないが、しばしば運動で悪化したり、心筋虚血中におこる。それはニトログリセリンにより軽快する。3)
- 梗塞部位と頭痛との関連においてCulicらは前壁領域の梗塞に頭痛が起こりやすいと報告しているが、自験例を含めて4例が下壁梗塞であり、前壁梗塞は2例。1)(ちなみに、私が経験した患者は後頭部痛の下壁梗塞、研究会で報告されたのは後頭部痛の前壁梗塞、文献4は前頭部痛の右室梗塞)
- 心筋虚血や梗塞によって頭痛が生じる原因は今のところはっきりと解明はされていない。1)
- 心筋虚血が頭痛を発症する機序として、①迷走神経を介する心臓由来の求心路と頭痛を伝える三叉神経との関連痛、②虚血に起因する心室機能低下による心拍出量低下がもたらす静脈うっ滞による頭蓋内圧亢進、③セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン、サブスタンスPなどの心筋から放出される化学メディエータ、④冠動脈と脳動脈に同時に生じる血管攣縮、が想定されている。2)
文献2はaVRだけST上昇を認めた3枝病変の患者。この報告は心電図の復習にもなった。文献4は右室梗塞の復習になった。下壁梗塞でV1のST上昇がみられる場合は右室梗塞を疑うことや、右側胸部誘導の有用性についても良い復習になった(V4Rにおける1㎜以上のST上昇の感度は70~90%、特異度は91~95%であること。右側胸部誘導でのST上昇は一過性(発症10時間以内)であることが多いことなど。)。
国際頭痛学会のカテゴリーになっているくらいなので、想像しているよりも頻度は多いのかもしれない。心筋梗塞や心筋虚血で頭痛が起こり得るということは認識しておく必要がある。
参考文献
- 森敏純, 筈井寛, 星賀正明 et al. 激しい頭痛で発症した急性心筋梗塞の 1 例. J Cardiol Jpn Ed, 2010, 5: 49-52.
- 小畑 仁司, 川上 真樹子, 根来 孝義, 雷鳴様頭痛で発症し,くも膜下出血が疑われた 急性心筋虚血による心原性ショックの1例, Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care, 2021, 33 巻, 2 号, p. 77-80.
- 日本頭痛学会. 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版. https://www.jhsnet.net/kokusai_new_2019.html
- 内科モーニングカンファレンス スキルアップ73case. 東京. メジカルビュー社. 2010.
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