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電磁過敏症:electromagnetic hypersensitivity (EHS)

はじめに

 電柱のトランスや電子機器から音が聞こえて眠れないという訴えの患者。論理が飛躍していなければ、安易に精神科疾患と決めつけてはいけないだろう。どうやら電磁過敏症という病名があるようだ。勉強してみることにした。

電磁過敏症のポイントのまとめ

  • 電磁過敏症は、ICD-10 には登録されておらず、電磁界に起因する特発性環境不耐症idiopathic environmental intolerance attributed to electromagnetic fields[IEI-EMF]と表現することもあるが、明確に疾病概念は定まっていない。1)
  • 患者の急性または中枢神経系症状を含む幅広い非特異的多臓器症状の存在を特徴とする臨床症候群。3)
  • 近年、電磁過敏症が問題となっている。これはコンピュータのモニタ、携帯電話基地局、コードレス電話機、IH調理器を含む家電製品一般、高圧送電線など多種多様な電磁波源に暴露されると、発がん、生殖機能異常や白内障あるいは子供の行動、発育異常など種々の症状がでるというものである。2)
  • 国際がん研究機関は、2011年までに行われていた電磁波と発がんの関係を調べた多数の研究結果に基づき、3×104ヘルツ~3×1011ヘルツの電磁波が脳・中枢神経系の発がんの原因である可能性を否定できない、としてクラス2B(人に対する作用について限られた証拠を有する要因)に分類している。2)
  • 現状ではヒトがレファレンスレベルを下回るような弱い磁場を感じることはあり得ないとする見方が支配的であるため、この設定に疑問が呈されることはない。しかし一方では、細菌、鳥類、爬虫類、魚類など、意外と多くの生物種がレファレンスレベルより弱い地磁気を移動方向の制御に利用していることが解明されつつある。2)
  • 非常に低い強度の磁気および高周波周波数における電磁場の細胞レベルでの生物学的影響が、数多くの研究で示されている。3)
  • 過敏症患者の多くは、過剰な酸化ストレスによって過負荷となっている解毒システムが障害されている可能性がある。3)
  • この症状は、多発性化学物質過敏症の患者が報告するものと似ており、頭痛、疲労、ストレス、睡眠障害、brain fog、短期記憶障害、過敏症、情緒不安定、不安などの中枢神経系の症状が含まれまする。他の症状には、吐き気、胸痛、動悸、息切れ、筋肉痛、性欲減退、食欲減退、皮膚反応などがある。3)
  • オーストリア医師協会は、耳鳴りや耳の圧迫感だけでなく、睡眠の問題、筋肉や関節の問題、頭痛、集中力の低下、記憶の問題を指摘している。3)
  • 一般的なEHSの症状には、頭痛、集中力の低下、睡眠障害、うつ病、エネルギー不足、疲労、インフルエンザのような症状などがある。すべての症状とその発生を空間的および時間的観点から、また電磁波曝露の状況を含めた包括的な病歴が、診断の鍵となる。4)
  • 電磁過敏症は明確な診断基準を持たず、その発症原因は不明だが、「ノセボ効果」が介在していると推察されている。1) →文献5もノセボ効果を検証したランダム化比較試験。患者の不安をあおるだけでは逆効果になるかもしれない。
  • これまで、EHS の特定の治療法は確立されていません。4) →様々な方法が著者らによって提唱されているが、あくまで経験に基づいて健康的な生活のための一般的なアドバイス。
  • 有害な電磁波曝露が十分に軽減されれば、身体は回復する機会を得て、EHS 症状は軽減されるか、あるいは消失することもある。4)

 基本的なスタンスはどの疾患も同じだ。まずは、困っていることを医師側が受けとめて、その上で症状に対するアプローチ、健康増進のアドバイス、環境調整についての勧めをするよりないだろう。

 電磁波遮断シートなるものも販売されているが、こういうものの効果もあるのだろうか・・・・。論文検索ではヒットしなかった。商品のレビューを見ると、携帯電話の電波が遮蔽されているような商品もあるようだ。遮断シートも電磁波計もそれほど高額でないので、こういうものを活用することが直接的、間接的に効果があるのか気になってしまう・・・

(商品の例。なお、特定の商品をお勧めしているわけではありません。:アストロ 電磁波遮断シートERICKHILL 電磁波計

参考文献

  1. 大久保千代次. 電磁過敏症って本当にあるの?―WHO の見解を紹介します―. 日本看護研究学会雑誌, 2020, 43.3: 3_360-3_360.
  2. 宮田英威. 生物の磁場感受性と電磁過敏症. 室内環境, 2019, 22.2: 209-215.
  3. Stein Y, Udasin IG. Electromagnetic hypersensitivity (EHS, microwave syndrome) – Review of mechanisms. Environ Res. 2020 Jul;186:109445. doi: 10.1016/j.envres.2020.109445. Epub 2020 Mar 30. PMID: 32289567.
  4. Belyaev I, Dean A, Eger H, Hubmann G, Jandrisovits R, Kern M, Kundi M, Moshammer H, Lercher P, Müller K, Oberfeld G, Ohnsorge P, Pelzmann P, Scheingraber C, Thill R. EUROPAEM EMF Guideline 2016 for the prevention, diagnosis and treatment of EMF-related health problems and illnesses. Rev Environ Health. 2016 Sep 1;31(3):363-97. doi: 10.1515/reveh-2016-0011. PMID: 27454111.
  5. Verrender A, Loughran SP, Dalecki A, Freudenstein F, Croft RJ. Can explicit suggestions about the harmfulness of EMF exposure exacerbate a nocebo response in healthy controls? Environ Res. 2018 Oct;166:409-417. doi: 10.1016/j.envres.2018.06.032. Epub 2018 Jun 21. PMID: 29936289.

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