はじめに
感染性心内膜炎は、修正Duke診断基準に照らして診断するのが大切。基準に照らすためには感染性心内膜炎を疑わないといけない。脳梗塞などの神経疾患、椎体炎や腸腰筋膿瘍などの整形疾患、PMRなどの膠原病など、疑うきっかけは必ずしも内科疾患とは限らない。治療については感染性心内膜炎が致死的疾患であることと、長期の治療が必要な点を考慮して、可能であれば感染症の専門家と相談した方がいい。内科的治療に抵抗しそうな病原菌である緑膿菌、耐性腸球菌、カンジダなどは心臓外科の先生とも相談が必要。治療の効果判定で重要なのは血液培養の陰性化(CRPではない)。
感染性心内膜炎のポイントを復習してポイントをまとめてみることにした。Duke診断基準のリウマチ因子についてあまり注目したことが無かったので、その検査特性についても調べてみた。
感染性心内膜炎のポイントのまとめ
- 感染性心内膜炎は、心内膜(弁膜)を主座とする重症感染症である。7)
- 感染性心内膜炎は、疾患名としてはよく知られているが、診断は必ずしも容易ではなく、適格な診断と手術を含む治療が遅滞なく行われなければ合併症により死亡する、“致死的疾患”である。7)
- 診断は困難で、しばしば不明熱となるため、抗菌薬治療の発達した現在でも死亡率は15~30%と依然として高いままである。2)
- 多くは亜急性の経過をとり、感染症よりむしろ膠原病や悪性疾患との鑑別を要し、容易に診断に至らないことがある。7)
- IEの主な原因菌は口腔内連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、腸球菌であり、主な侵入門戸は口腔内と皮膚である。2)
- 高齢者や解熱鎮痛薬を定期的に内服している患者では発熱を呈さないことがある点に注意が必要である。2)
- 初期には全身状態も良好なことが多いので、診断エラーのリスクが高い。6)
- 発熱以外の診察所見で半数以上に認められるものはなく、炎症反応の上昇を認めないケースもある。「新規の心雑音プラスOsler結節プラス結膜出血」などの決定的な所見があれば診断は容易であるが、そのような所見に乏しいケースが多い。6) →痛くない出血所見などは医師側が探さないと見つからない。
- IEは疣贅による弁破壊や疣贅の全身への播種により、急性心不全、塞栓性脳梗塞、頭蓋内出血、髄膜炎・脳膿瘍、化膿性関節炎、化膿性脊椎炎、腸腰筋膿瘍、肝梗塞、脾梗塞、腎梗塞、腸間膜動脈梗塞など様々な疾患を合併する。2)
- 丁寧な身体診察による末梢血管塞栓に伴う所見(眼球結膜の点状出血、手掌や足底の無痛性もしくは有痛性紅斑・皮疹)や心雑音を正確に把握することはIEを疑う重要な根拠になり得る。1)
- 関節痛が単関節で始まり、経時的に多関節で認めるようになった場合、疣贅の播種による化膿性関節炎の合併が特に疑われる。2)
- 脊椎の連続しない部位に疼痛を認める場合は、IEによる化膿性脊椎炎が疑われる。化膿性脊椎炎の約30%にIEを合併するとされる。2)
- 化膿性脊椎炎は、報告によって差があるものの、感染性心内膜炎の数%~30%程度に合併する。化膿性脊椎炎と診断された(または疑う)患者では、感染性心内膜炎を忘れないようにしたい。7)
- 感染性心内膜炎の44%には筋肉痛・関節痛・腰痛などの何らかの筋骨格系症状が合併し、26%では関節炎/滑膜炎を呈します。3)
- 心雑音はIEの身体所見で最も重要であるが、初診時では約60%でしか聴取しないという報告もあり、心雑音がないからといってIEを否定することはできない。2)
- 検査データに特徴的なものはなく、貧血(70~90%)、末梢血白血球増多(50~80%)、血沈促進(>90%)、CRP(C-reactive protein) 高値( >90%)、尿潜血陽性(25~60%)、リウマチ因子陽性(5~20%)ならびに血清低補体価(5~15%)等が認められるため、時として、腎盂腎炎や膠原病、血管炎、糸球体腎炎等と誤って検査が進められることもある。7)
- IEの診断に心エコー図はきわめて重要であるが、特に病初期や人工弁置換・デバイス留置後の症例では診断感度が高くないことは、肝に銘じるべきである。1)
- IEでは糸球体腎炎を呈するため、尿潜血と尿蛋白を同時に認め、変形赤血球や赤血球円柱を伴う可能性がある。2)
- 血液培養による原因菌の検出率は、2セット採取で90~94%、3セットで96~98%、4セット以上で99.8%とされる。IEを疑う場合は、血液培養を最低3セット以上採取する。2)
- 抗菌薬投与前に3 セットを採取するが、敗血症を呈しており臨床的に余裕がない場合は、2 セットでもよい。持続する菌血症が本症の特徴であり、インターバルを置いた血液培養で同一菌が分離されるが、採血間隔にはっきりとした決まりはない。7)
- 血液培養において、黄色ブドウ球菌がコンタミネーションとなることは少なく、1セットでも陽性となった場合はIEの可能性を考慮して慎重な対応をする。4)
- 血培のコンタミの判断は? ①一般的にコンタミと考えるべき菌が検出された場合、②培養陽性までに長時間を要したとき、③2set(以上)の血培で1setしか陽性にならないとき。5)
- コンタミが多い菌(コンタミ率, %):CNS(表皮ブ菌等) 62~82%、コリネバクテリウム属 68~96%、Bacillus cereus 68~91.7%、プロピオニバクテリウム 84~100%、Viridans属連鎖球菌 32~49.3%、Clostridium perfringens 77%(逆にこれら以外の菌は1/2set陽性でも真の起因菌の可能性が高い!)5)
- 2分の1セットでも起因菌と考えるべき菌は?(菌種, 起因菌率%):黄色ブドウ球菌 93%、肺炎球菌 100%、溶連菌 97%、グラム陰性桿菌全般 93~100%、バクテロイデス 97%、カンジダ 100%。5)
- 治療開始後の血培陰性化の確認が必須な菌(2つ):黄色ブドウ球菌(MSSA/MRSA)・Candida…陰性化~2週間以上治療。5)
- 血液培養陰性の主な理由は、血液培養提出前に内服を含む抗菌薬が投与されていることによる。特に各種抗菌薬に感受性が良好なレンサ球菌は検出が難しくなる。7)
- (血液培養)複数回の検体で同一菌種が検出されることで診断される。血液培養やその他の臨床徴候からIEが疑われる症例では、経胸壁心エコー図で前述のIE大基準に相当する所見が陰性であっても経食道心エコー図を実施するべきである。1)
- IEに一致する心エコー所見の感度はTTEで50~70%、TEEで96%とされる。2)
- TEEで感染性心内膜炎に該当する異常所見を指摘できなくても、臨床的に疑う場合には、3~7日の経過で再施行すべきとされている。7)
- 経食道心エコー(TEE)データさえ感度100%ではなく、入院後に2回TEEを施行してやっと疣贅を認めることができるケースもある。6)
- IEの約30%で逆流性弁膜症がないか、あっても1度未満と報告されている。このため、弁膜症の有無でIEを除外できず、IEを疑う場合はTTEで有意な所見を認めなくてもTEEまで行う必要がある。特に、機械弁患者においてはTEEが推奨されている。2)
- 胸腹部造影CTでは、修正Dukes基準に含まれる敗血症性肺塞栓や主要血管塞栓(肝梗塞、脾梗塞、腎梗塞、腸間膜動脈梗塞)の有無、および化膿性関節炎や腸腰筋膿瘍、化膿性脊椎炎などの合併症の有無を精査する。2)
- 疣贅が塞栓子となり脳梗塞や感染性動脈瘤を生じる。2)
- 脳梗塞は小基準である主要血管塞栓のなかでも最多の要因。2)
- IEによる脳梗塞はきわめて小さく、15~65%が無症候性である。このため、IEを疑った場合は脳梗塞に典型的な症状を認めなくとも、禁忌がない限り全例において頭部MRI検査を行うことを検討する。2)
- 抗菌薬による治療を行いつつ、必要であれば機を逸せず外科的治療を実施することがIE治療の大原則である。1)
- 感染症医ヘコンサルトしたうえで投与する抗菌薬を決定するのが望ましい。2)
- 準緊急的に外科的治療を実施する状況として主に以下(コントロールできない心不全、難治性感染症、塞栓症)があげられる。1)
- 主に急速に進行する心不全、難治性感染症、10mmを超える浮動性の疣贅を伴う場合では、緊急または準緊急で弁膜症手術を検討する必要がある。2)
- 新規の脳出血を認める場合は、4週間は手術を延期する。2)
感染性心内膜炎に対するリウマトイド因子の検査特性
文献8は修正Duke診断基準の免疫学的現象の精度ついて注目した論文。これによると、結果は以下の通り。陽性尤度比と陰性尤度比は、提示された感度と特異度を用いて計算した。リウマチ因子は単独だと診断精度が低く、確定診断にも除外診断にもごくわずかにしか寄与しない(例えば、事前確率50%としても、事後確率は49~56%までしか変化しない)。少なくとも組み合わせて総合的に判断するのがいい(まあ、それが修正Duke診断基準)。
感度(%) | 特異度(%) | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 | |
血尿 | 50.5 | 71.6 | 1.78 | 0.69 |
リウマチ因子 | 19.4 | 84.7 | 1.27 | 0.95 |
ロス班 | 8.1 | 98.3 | 4.76 | 0.93 |
感染性心内膜炎については、まずは疑うことが重要。リウマチ因子については、これが決定的に重要な役割を果たしたような経験がなく、測定しないことも多かったので、今後はDuke診断基準をより意識した検査項目のオーダーを心掛けてみようと思う。
参考文献
- 山野哲弘. 感染性心内膜炎. 診断と治療 111(suppl): 132-137, 2023.
- 山下駿, 山下秀一. 感染性心内膜炎. 診断と治療 111(8): 1045-1050, 2023.
- 陶山恭博. 急に関節が痛くなった, 熱もある. レジデントノート 24(15): 2624-2631, 2023.
- 篠原孝幸. 感染症 感染性心内膜炎を疑う不明熱. Medical Practice 38(11): 1651-1656, 2021.
- 岡英明. 正しくビビろう血培陽性. 令和元年第1回救急部勉強会資料. https://www.matsuyama.jrc.or.jp/wp-content/uploads/pdfs/kr1_04.pdf
- 徳田安春. #診断推論 「外来診断訴訟の高リスク : 感染性心内膜炎」. 日本医事新報 (5072): 67-67, 2021.
- 光武 耕太郎. 感染性心内膜炎の診断. 2020年 109 巻 9 号 1968-1975
- van der Vaart TW, Heerschop LL, Bouma BJ, Freudenburg W, Bonten MJM, Prins JM, van der Meer JTM. Value of diagnosing immunological phenomena in patients with suspected endocarditis. Infection. 2023 Jun;51(3):705-713.
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