はじめに
ループスアンチコアグラントが陽性なので抗リン脂質抗体症候群(Antiphospholipid syndrome: APS)を検討したほうが良いとアドバイスをいただいた。症状があればもちろん専門の先生への相談は必要だが、症状や所見を伴わないならどうだろうか。抗リン脂質抗体症候群に対するループスアンチコアグラントの精度を調べてみた。
ちなみに、APSは、抗リン脂質抗体(aPL)が存在下に認める血栓症および妊娠合併症であり、診断は札幌分類基準シドニー改変を参考に行われるとされる。この基準では、①血栓症あるいは妊娠合併症が存在し、②aPL(分類基準で定義されているのはループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI抗体(anti-β2 glicoprotein I antibodiesのいずれか)が持続陽性であれば分類可能とされる。1)
血栓症や妊娠合併症の既往や病歴の確認が非常に重要だ。
検査特性
慶応義塾大学病院や順天堂大学医学部附属順天堂医院の医療情報サイトの情報 2)3)によると、ループスアンチコアグラント(Lupus anticoagulant: LAC)はそれほど特異的な検査でないことが示されている。
- APSとは抗リン脂質抗体が直接あるいは間接的に血栓症や不育症などを誘発する病態に基づく疾患であり、単に血栓症と抗リン脂質抗体陽性の併存で診断されるわけではありません(抗リン脂質抗体は健常人でも高率に陽性となり、その頻度は10~40%と報告されています。2)
- 年齢と共に陽性率が上昇し、80歳以上では40%が陽性です。3)
- 他の自己免疫疾患や基礎疾患なしに陽性となることがあり、LACと抗カルジオリピン抗体は健常者の1〜5%で陽性となる報告もある。3)
文献4によると、検査方法によっても異なるようだが、感度は56.5%~72.6%、特異度は70.8%~73.7%と報告されている。中国の研究なので、欧米のデータよりも外的妥当性は高いように思う。陽性尤度比は1.9~2.7、陰性尤度比は0.37~0.52なので、単独で確定や除外をすることは難しいだろう。(もちろん、診断基準に照らしても、単独で診断することは無いと思う。)
LAC results of APS and non-APS patients in the LAC-positive population, defined 1.61 as the best cut-off value for DRVVT normalized ratio with 73.7% specificity and 72.6% sensitivity and 1.91 for SCT normalized ratio with 70.8% specificity and 56.5% sensitivity 4)
いずれにせよ、患者の症状と所見から検査データが矛盾に無いのかを検討しないといけない。anatomy、pathology、etiologyに見合う検査結果なのかは常に意識する必要がある。検査が陽性だからと言って、その結果を乱暴に扱うと信用失墜の恐れがある。肝に銘じておきたい。
参考文献
- 朝倉啓友、奥健志. Thrombosis Medicine 13(2): 125-129, 2023.
- 抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid syndrome: APS). KOMPAS(Keio Hospital Information & Patient Assistance Service). 最終更新日:2017年2月23日
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000730.html - 抗リン脂質抗体症候群. 順天堂大学医学部附属 順天堂医院 膠原病・リウマチ内科ホームページ. https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/kogen/about/disease/kanja02_05.html
- Tang N, Sun Z, Yin S. Characteristics of Chinese patients with antiphospholipid syndrome and the ability of lupus anticoagulant assays to identify them. Clin Chem Lab Med. 2016 Nov 1;54(11):1787-1791. doi: 10.1515/cclm-2016-0129. PubMed PMID: 27096780.
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