はじめに
学生と勉強中に死力が話題になった。「最後の死力を尽して、メロスは走った」の死力ではなく、疫学で扱う死力。国家試験問題 1)にもなっている。疫学や公衆衛生からは細かい点の指摘を受けそうだが、まずは考え方の概要を理解するためのまとめをしてみたい。
113F17
生命表について正しいのはどれか。
a 死力は定義上1以下の数値をとる。
b 平均寿命は実際の人口の年齢構造により変化する。
c 平均寿命は毎年の死亡者の平均年齢から算出される。
d 50歳平均余命は50歳の者が生まれて以降の毎年の死亡率を使用する。
e 50歳死亡率は50歳になった者が51歳になる前に死亡する確率である。
(答えe)
死亡率
言葉の定義を理解する必要がある。死力を理解するには、まず死亡率を理解するのがいい。厚生労働省のホームページには以下のように記載されている。2)
死亡率nqx:ちょうどx 歳に達した者がx+n 歳に達しないで死亡する確率を年齢階級 [x , x+n )における死亡率といい、これをnqxで表す。特に1qx をx 歳の死亡率といい、これをqxで表す。
大事なポイントは後半で、x歳の人が1年後に死亡している確率がx歳の死亡率というところだ。生存数曲線を用いて、視覚的に示してみる。まず、1歳年を取ると、生存数が減ることは容易に想像がつく。
この時、x歳時点の生存数をax人と表現してみる。x+1歳時点の生存数はax+1人ということにする。そうすると、x歳の人たちは1年経つと、ax人からax+1人に減ることになる。
この時、実際に何人減ったのかというと、ax人からax+1人を引いた数になる。
この1年間に減った人の割合が、x歳における死亡率と定義される。式で書くと以下のように表現できる。
x歳の死亡率=(ax-ax+1) / ax
仮に、70歳の人たち10万人が1年間で9万人になったら、死亡率は(10万-9万)/10万で0.1(10%)ということになる。
死力
でも、おかしいと思わないだろうか。これは、x歳時点の死亡のリスクといえるのだろうか。どちらかというと、x+1年までの平均的なリスクを示しているのではないだろうか。
ということで、x歳時点のその瞬間の死亡率に相当する指標があった方がいいような気がする。どうしたらよいだろうか。もう一度、一番最初の図に戻って考えてみたい。確かに、1年間という期間では、平均的に矢印のような傾きでリスクがありそうだ。
そうはいっても、本来x歳からx+1歳になるまでは、リスクは一様ではない。なぜなら、以下の黄色の点線のように、年齢の変化に伴って随時傾きが変化するからだ。
x歳の死亡率というからには、x 歳におけるその瞬間の死亡率を知りたいところである。つまり以下の図のように、x 歳時点の曲線の接線の傾きをリスクに持つときには、1年後どれくらい死亡が見込まれるのかということを考えてもよいのではないか。
こういう特殊な条件で、最初に計算したように死亡率(1年後までに死亡すると期待される割合)を求めることができる。
この時の死亡率のことを死力という。
x歳の死力=(bx-bx+1) / bx
ここまでを理解した上で、死力の定義 2)を眺めてみる。
死力μx:x 歳における瞬間の死亡率を死力と呼び、μxで表す。
死力は特殊な死亡率で、x歳その時点のリスクを反映している。その瞬間的なリスクがあるときに、1年後どれくらい死亡するのかを示した指標だと考えればいい。(なぜ1年かというと、死亡率がそういう定義だから。)
死亡率nqx:ちょうどx 歳に達した者がx+n 歳に達しないで死亡する確率を年齢階級 [x , x +n )における死亡率といい、これをnqxで表す。特に1qx をx 歳の死亡率といい、これをqxで表す。
死亡率と死力との違いを考えたときに、興味深いことが起こり得る。以下のような図を考えてみる。
これは非常にハイリスクな疾患をもつ集団には起こり得ることだが、1年を待たずして、すべての人が死亡してしまうくらいの急な傾きを持つ場合には、1年後は理論的には元の人数より大きな人数が死亡してしまうような値をとるはずだ。この場合には死亡率は1より大きな値をとることになるだろう。理論的には死力は0から∞の値をとり得るのではないか。通常の死亡率は生存数曲線を用いるのでこういうことは無いはずだ。
いったいこれが何の役に立つのか感じているうちはおそらく役に立たない。何かの役に立つと気づいたときに初めて役に立つのだと思う。
参考文献
- 厚生労働省. 第113回医師国家試験の問題および正答について.
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp190415-01.html - 厚生労働省. 生命表諸関数の定義.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/20th/ss03.html
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