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9価子宮頸がんワクチンの効果

はじめに

 患者にシルガード9について聞かれた。効果と副作用くらいは調べておこうと思う。

 その前に、厚生労働省のページ 1) を参考に、公費や安全性などの情報を確認しておく。気になったところだけ抜粋。

  • 現在、定期接種として公費で受けられるHPVワクチンは、2価ワクチン(サーバリックス)、4価ワクチン(ガーダシル)、9価ワクチン(シルガード9)の3種類があります(※)。
    (※)令和5(2023)年4月から、シルガード9も公費で受けられるようになりました。
  • Q4:年齢によってシルガード9の接種回数が異なるのはなぜですか?
     シルガード9を合計2回の接種で完了する用法については、9~14歳の女性を対象に臨床試験が行われ、効果と安全性が確認されたうえで薬事承認がなされており、シルガード9を2回接種した9~14歳の方における効果は、3回接種した方と比べて、劣ってはいないことが報告されています。また、米国やカナダ、オーストラリアなどの諸外国では、原則、15歳になるまでに1回目の接種を終えていれば、2回で接種完了としています。
     これらの背景から、15歳になるまでに1回目の接種を行った方は、2回で接種を完了できることとしています。なお、シルガード9を含め、HPVワクチンの定期接種は小学校6年~高校1年相当の女子が対象であり、標準的な接種期間は、中学校1年(13歳になる学年)の女子となっています。
  • Q8:定期接種の対象年齢でない人も、シルガード9を任意接種として受けることはできますか?
     シルガード9は、2021年2月から日本国内で販売されているため、定期接種の対象年齢でない方も、任意接種として受けることは可能です。お近くの医療機関などにご相談ください。ただし、予防接種法に基づく定期接種(公費での接種)の対象ではないため、接種費用は全額自己負担となります。なお、万が一健康被害が生じた場合は、予防接種法に基づく予防接種健康被害救済制度ではなく、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく医薬品副作用被害救済制度の対象となります。
  • 副反応疑い報告と審議会での評価
     接種後に生じうる副反応を疑う事例について、医療機関に報告を求め、収集しています。
     ワクチンと関係があるか、偶発的なもの・他の原因によるものかが分からない事例も数多く報告されます。
     収集した報告について、厚生労働省の審議会に報告し、専門家による評価を行います。こうした結果を公表するなどして、安全性に関する情報提供などを行っていきます。

9価と4価のワクチンの効果を比較

 9価と4価のワクチンの効果を比較した論文2) を読んでみた。

PECO

P: women 16 to 26 years of age
E: 9-valent viruslike particle vaccine against human papillomavirus (9vHPV) vaccine in a series of three intramuscular injections on day 1 and at months 2 and 6
C: quadrivalent HPV (qHPV) vaccine
O: The primary efficacy hypothesis was that, as compared with the qHPV vaccine, the 9vHPV vaccine would reduce the combined incidence of several conditions related to HPV-31, 33, 45, 52, and 58 in women 16 to 26 years of age who were seronegative on day 1 and for whom there were negative results on PCR assays for the relevant HPV type from day 1 through month 7. These conditions (the study end points) were high-grade cervical intraepithelial neoplasia, adenocarcinoma in situ, invasive cervical carcinoma, high-grade vulvar intraepithelial neoplasia, high-grade vaginal intraepithelial neoplasia, vulvar cancer, and vaginal cancer.

 16~26歳の女性に対して、9価子宮頸がんワクチンを接種すると、4価子宮頸がんワクチンを接種する場合と比較して、HPV-31、33、45、52、58に関連する複合イベントが減少するかどうかを検討している。

 複合イベントとは高度子宮上皮内腫瘍、上皮内腺癌、浸潤性子宮頸癌、高度外陰上皮内腫瘍、高度腟上皮内腫瘍、外陰癌、および腟癌など。

妥当か

 抄録にrandomized, international, double-blindなどの記載あり。本文にmodified intention-to-treat populationに関する記載がある。

Supportive efficacy analyses were performed in the modified intention-to-treat population, which included participants who received at least one dose of vaccine and for whom there was at least one measurement of efficacy for the corresponding end point.

結果

 HPV型に関係なく引き起こされた疾患を対象とすると、子宮頸部、外陰部、または腟の高度疾患の発生率は、両ワクチン群で1000人年あたり14.0件であった。

The rate of high-grade cervical, vulvar, or vaginal disease irrespective of HPV type (i.e., disease caused by HPV types included in the 9vHPV vaccine and those not included) in the modified intention-to-treat population (which included participants with and those without prevalent infection or disease) was 14.0 per 1000 person-years in both vaccine groups.

 HPV-31、33、45、52、および58に関連する子宮頸部、外陰部、または腟の高度疾患の発生率は、あらかじめ規定されたプロトコール有効性集団(感受性集団)において、9価HPV群では1000人年あたり0.1件、4価HPV群では1000人年あたり1.6件であった。9価HPVワクチンで96.7%減少した。

The rate of high-grade cervical, vulvar, or vaginal disease related to HPV-31, 33, 45, 52, and 58 in a prespecified per-protocol efficacy population (susceptible population) was 0.1 per 1000 person-years in the 9vHPV group and 1.6 per 1000 person-years in the qHPV group (efficacy of the 9vHPV vaccine, 96.7%; 95% confidence interval, 80.9 to 99.8).

 副反応として、注射部位のイベントは9価HPV群では90.7%、4価HPVグループで84.9%であった。

Adverse events related to injection site were more common in the 9vHPV group than in the qHPV group.

 4価であっても9価であっても、臨床的には大きな効果の違いはなさそう。価数より大事な点として、どうせ予防接種するならウイルス感染前の早い時期に行うのがよさそう。効果は100%でなく、検診をきちんと受けることが重要だと伝えることも必要だ。

副反応振り返り

 ところで、かつて騒がれた副反応について、今はどのように認識されているのだろうか。文献3で気になった部分を拾い上げてみる。(文献4はワクチン完全否定の記事。これはこれで興味深いが・・・)

  • 有害事象と副反応という言葉について簡単に説明したいと思います。ワクチン接種後に起こった好ましくない事象を有害事象とよびます。これは接種後に起こるという時間的な関係のみで述べられ、囚果関係は問いません。3)
  • HPVワクチン接種による副反応と考える立場による症候群の基準は、Ⅰ.前提条件を「HPVワクチン予防接種後(期間は限定しない)」「HPVワクチン接種前は身体的/精神的ともに明らかな異常がない」としています。そして、Ⅱ.大基準の3項目以上もしくはⅡの2項目以上でⅢ.小基準の1項目以上があれば確実例とされます。(中略)「HPVワクチン接種後の期間を限定しない」のであれば、接種後に遭遇するほかの原因による事象や接種後に発症する問題が紛れ込んでくる可能性が考えられます。3)
  • 紛れ込みの候補の一つが、海外でも話題となり、日本でもHPVワクチン接種後の患者にみられるとされる思春期の起立不耐症の一つ、体位性頻脈症候群(postural tachycardia syndrome:POTS)です。3)
  • 起立試験で30拍/分以上(12~19歳の場合には40拍/分以上)の心拍数の上昇を認めることで診断します.。3)
  • ワクチン接種後に痛み等によって身体活動が低下したことでデコンディショニングに陥り、それが起立不耐症を悪化させるとも考えられます。3)
  • 痛みで身体活動が低下して筋肉と関節の機能が低ドしているときに運動をすると、痛覚過敏によって痛みがさらに悪化するのです。そして慢性的な痛みがあり、痛みが怖いために動くことを避けると、さらにデコンディショニングや過敏性を増悪させると考えられます。3)
  • まずは私たちが多彩な症状について正しく理解し、子どもたちに説明できることが重要です。3)
  • (論文の小見出しのみ引用)4)
    25 ~ 40 歳の女性の死亡率を5倍に
    名古屋調査で重度障害が47 倍
    デンマーク調査では神経症状が5倍超→デンマークの調査は5)のこと
    健康な接種者に子宮頸がんが少ないだけ
    英国調査もバイアスのため→英国の調査は6)のこと
  • 結論HPV ワクチンは効果なく害だけ、中止すべきです。4)

 好きな情報だけ集めて判断せず、都合の悪い情報も含めて評価して、接種を判断するのがいいと思う。都合が良し悪しと、論文の信頼度の高さは切り分ける必要がありそうだ。

参考文献

  1. 9価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(シルガード9)について. 厚生労働省HP. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/hpv_9-valentHPVvaccine.html
  2. Joura EA, Giuliano AR, Iversen OE, Bouchard C, Mao C, Mehlsen J, Moreira ED Jr, Ngan Y, Petersen LK, Lazcano-Ponce E, Pitisuttithum P, Restrepo JA, Stuart G, Woelber L, Yang YC, Cuzick J, Garland SM, Huh W, Kjaer SK, Bautista OM, Chan IS, Chen J, Gesser R, Moeller E, Ritter M, Vuocolo S, Luxembourg A; Broad Spectrum HPV Vaccine Study. A 9-valent HPV vaccine against infection and intraepithelial neoplasia in women. N Engl J Med. 2015 Feb 19;372(8):711-23. doi: 10.1056/NEJMoa1405044. PMID: 25693011.
  3. 石崎優子. 特集 今こそ知りたい! HPVワクチンのすべて : (6) 副反応と疑われた症状は何だったのか. チャイルドヘルス 25(12): 900-903, 2022.
  4. 薬のチェック編集委員会. HPVワクチン 子宮頸がん防止に無効, 害は重い. 薬のチェック 23(106): 34-34, 2023.
  5. Hviid A, Thorsen NM, Valentiner-Branth P, Frisch M, Mølbak K. Association between quadrivalent human papillomavirus vaccination and selected syndromes with autonomic dysfunction in Danish females: population based, self-controlled, case series analysis. BMJ. 2020 Sep 2;370:m2930. doi: 10.1136/bmj.m2930. PMID: 32878745.
  6. Falcaro M, Castañon A, Ndlela B, Checchi M, Soldan K, Lopez-Bernal J, Elliss-Brookes L, Sasieni P. The effects of the national HPV vaccination programme in England, UK, on cervical cancer and grade 3 cervical intraepithelial neoplasia incidence: a register-based observational study. Lancet. 2021 Dec 4;398(10316):2084-2092. doi: 10.1016/S0140-6736(21)02178-4. PMID: 34741816.

過去の勉強ノート1

子宮頚癌ワクチン(サーバリックス)の効果:PATRICIA(100415)

 子宮頚癌の予防という観点からは、産婦人科のみならず、内科、小児科など多くの科が協力して疾患予防に努めるのがよい。プライマリケアを行う医療機関であれば子宮頚癌ワクチンを行っている施設も多いと思う。その効果について調べてみた。

 GSKのプレスリリースではPATRICIAの結果を踏まえて以下のように宣伝されている。

  • 試験のプロトコールを遵守した被験者(総被験者の87%)において、HPV16型と18型に関連する子宮頸部前がん病変(CIN2+)に対して92.9%の予防効果が示されました。
  • 病変がHPV16型と18型に起因しないと考えられる例を除いて再解析をしたところ、HPV16型と18型に起因する子宮頸部前がん病変(CIN2+)に対する予防効果は98.1%であることが示されました。
  • さらに試験結果は、「Cervarix®」が子宮頸がん予防ワクチンとしては初めて、HPV16型と18型以外の型による前がん病変に対しても、有意なクロスプロテクションがあることを示しています。このクロスプロテクションにより、HPV16型と18型だけに対する予防効果に加えて、約11-16%高い予防効果が得られると解釈できます。これは主に、HPV31型、33型、45型に対する予防効果によるものです。

GSKプレスリリース「GSKの子宮頸がん予防ワクチンの画期的試験結果、「ランセット」誌に掲載 」http://glaxosmithkline.co.jp/press/press/2009_07/P1000565.html

 これだけ読むと、なんだか夢のようなワクチンと感じてしまう。実際論文を読んでみることにした。

(実際読んでみて、この論文は記載が複雑で、解読するのに相当時間がかかってしまった。研修医のトレーニングのため読むには適さないと思う。ただ、売り手が伝えたい情報と、臨床医が直面する現実との乖離に興味があるならば面白い教材になりそうだ。)

 いつもの通りPECOから読んでいく。(不十分な情報は本文から)

●PECO

P:Healthy women aged 15–25 years at the time of first vaccination were enrolled
E:HPV-16/18 AS04-adjuvanted vaccine (Cervarix, GlaxoSmithKline Biologicals, Rixensart, Belgium) vaccinated at months 0, 1, and 6.
C:control hepatitis A vaccine (GlaxoSmithKline Biologicals) at 0, 1, and 6 months as previously described
O:The primary endpoint was to assess vaccine efficacy against cervical intraepithelial neoplasia 2+ (CIN2+) that was associated with HPV-16 or HPV-18 in women who were seronegative at baseline, and DNA negative at baseline and month 6 for the corresponding type (ATP-E).

 つまり、15-25歳の健康女性に対して、子宮頚癌ワクチンを接種すると、A型肝炎ウイルスワクチンと比較してHPV-16、18が原因のCIN2+が減るかどうかを検討した研究であることが分かる。

 ただ、ここでPECOの修正が必要を余儀なくされる。プライマリエンドポイントが、いきなりサブグループを対象としたエンドポイントとなっている。つまり、子宮頚癌ワクチンを接種しようとした健康な女性を最初にリクルートして割り付けしているのに、プライマリエンドポイントは血清学的にパピローマウイルスに感染しておらず、DNAも陰性の患者に限った症例だけを検討している。しかも、ATP-Eという集団は、Analyses were done in the according-to-protocol cohort for efficacy (ATP-E; vaccine, n=8093; control, n=8069)と抄録に記載されているとおり、プロトコール通り3回のワクチンを全て接種した集団しか含まれていない。試験のプロトコールを厳格には守れなかった多くの症例が除外された集団であることが分かる。

●妥当か

 抄録中にrandomised, double-blind、Mean follow-up was 34.9 months (SD 6.4) after the third doseなどのキーワードがあるが、PECOで述べたとおり、プライマリエンドポイントはITT解析されていない。それどころか、最初からパピローマウイルスに感染しておらず(血清学的にも陰性、DNAも陰性)、試験のプロトコールを厳格に守った症例であることが実際の臨床現場での効果と大きくかけ離れる可能性がある。

 現実離れという点に関して言えば、この論文のプライマリエンドポイントはHPV-16、18が原因のCIN2+が減るかどうかという点もやや問題である。患者にとって、HPV-16、18が原因かどうかはどうでもよく、全てのウイルスによる子宮頚癌、異形成が問題になることは言うまでもない。

 プライマリエンドポイントはプライマリエンドポイントとして大事だが、臨床的に大事な点は、サーバリックスで癌や異形成が減るかどうかという単純な点と思う。この点にも着目して読み進めたいと思う。

●結果

 プレスリリースで示された限定された集団の効果とは反対に、より大きな集団の結果から解釈したほうが分かりやすいと思う。その上でサブグループによる検討がされるのが普通の順番である。

 まず、サーバリックスを投与しようと考えたとき、その時点で期待される結果は以下のとおりである。(実際に目の前の患者がパピローマウイルスに感染しているかどうかわからない、現実に即した状態で見積もられる全ての原因によるCIN2+抑制効果)

 つまり30.4%程度の抑制効果ということだ。RRR、ARR、NNTを再計算してみる。

RRR:1-(224/8667)/(322/8682)=30.3%
ARR:322/8682-224/8667=1.124%
NNT:1/ARR=89人(34.9カ月)

 最初にプレスリリースで示された効果とは大きく印象が異なる。でも、ここから集団を限定していくと、98.1%の効果があるところまでたどり着く。

 論文に記載されている数字を並べなおしてみる。

集団と評価項目RRR
全ての集団(TVC)で、全ての原因によるCIN2+を評価 ①30.4%
全ての集団(TVC)で、HPV16又は18が原因によるCIN2+を評価50.2%
HPV感染の既往が無く、少なくとも1回のワクチン接種を行った集団(TVC-naive)で、全ての原因によるCIN2+を評価 ②70.2%
HPV感染の既往が無く、プロトコールを厳格に守った集団(ATP-E)で、HPV16又は18が原因によるCIN2+を評価92.9%
HPV感染の既往が無く、プロトコールを厳格に守った集団(ATP-E)で、厳格な検査によりHPV16又は18が原因によるCIN2+を評価98.1%
HPV感染の既往が無く、少なくとも1回のワクチン接種を行った集団(TVC-naive)で、HPV16又は18が原因によるCIN2+を評価98.4%

 ここで、HPV感染の既往がある患者について考えてみる。①-②がおおよそHPV感染の既往のある患者と近いと思うので、これについて再計算してみる。(不正確なので取扱注意)

 表より、①子宮頚癌ワクチン接種群の発症率は224/8667、コントロール群は322/8682、②の子宮頚癌ワクチン接種群の発症率は33/5449、コントロール群は110/5436なので、それぞれの分子、分母を引くとワクチン群191/3218(5.94%)、コントロール群212/3246(6.53%)と計算できる。

 この数字を用いてRRR、ARR、NNTを計算してみる。

RRR:1-(191/3218)/(212/3246)=9.1%
ARR:(212/3246)-(191/3218)=0.60%
NNT:1/ARR=168人(34.9カ月)

 先ほどの表に以下のような項目を付け加えてもいいかもしれない。こうなると、プレスリリースの数字とは相当大きな格差がある・・・。

集団と評価項目RRR
HPV感染の既往があったり、細胞診で異常を認める患者で、全ての原因によるCIN2+を評価(概算)9.1%

 うすうす感じている人も多いと思うが、キーワードは抄録に記載されているFunding GlaxoSmithKline Biologicals. というところだと思う・・・。

●まとめ

 RRRで表現するなら、一般的には30%程度の癌予防(前癌病変CIN2以上)ができ、HPV感染の既往が無いような低リスクの人では70%程度、HPV感染の既往があるようなハイリスクの人では10%程度の癌予防が可能とするのが、患者さんレベルで知りたいことを正確に表しているのだと思う。私自身は、だからと言って予防接種を否定するつもりもない。実際、自分の妻も予防接種を行っている。初めから完璧な予防など期待していない。予防接種を売る側の視点だけでなく、接種する側、取り扱う医療者のにもフェアな数字で公平な判断をするための素材が必要だと思うだけである。

参考文献

  1. Paavonen J, Naud P, Salmerón J, Wheeler CM, Chow SN, Apter D, Kitchener H, Castellsague X, Teixeira JC, Skinner SR, Hedrick J, Jaisamrarn U, Limson G, Garland S, Szarewski A, Romanowski B, Aoki FY, Schwarz TF, Poppe WA, Bosch FX, Jenkins D, Hardt K, Zahaf T, Descamps D, Struyf F, Lehtinen M, Dubin G; HPV PATRICIA Study Group, Greenacre M. Efficacy of human papillomavirus (HPV)-16/18 AS04-adjuvanted vaccine against cervical infection and precancer caused by oncogenic HPV types (PATRICIA): final analysis of a double-blind, randomised study in young women. Lancet. 2009 Jul 25;374(9686):301-14.

過去の勉強ノート2

子宮頚癌ワクチン(ガーダシル)の効果:FUTURE II Study(120210)

 以前、サーバリックスの効果について論文を読んだ。今回は4価の子宮頚癌ワクチンの「ガーダシル」の効果を検討した論文を読んでみた。

 論文を読む前にパピローマウイルスについてお勉強。HPV6、11は尖圭コンジローマなどの疣贅と関連している。以前、男性に対する予防接種の効果も勉強した。女性の疣贅に対する効果はFUTUREⅠStudyとして発表されているので後で読んでみることにする。

「ガーダシル®」は、ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus、以下HPV)の6、11、16および18型の4つの型の感染を予防する4価のHPVワクチンです。HPV16、18型は子宮頸がんの発症原因の約65%を占めており、特に20代では90%、30代では75.9%にもなります。また、HPV16、18型は、 外陰(がいいん) がんに先行してみられる場合のある 外陰上皮内腫瘍の高度病変の約76%を占め2、 腟がんに進行する可能性のある 腟上皮内腫瘍の発症にも関連しています。一方 HPV 6、11型は、 尖圭コンジローマ(性器イボ)の発症原因の約90%を占めています。「ガーダシル®」は、9歳以上の女性において、子宮頸がんだけでなく、外陰上皮内腫瘍、腟上皮内腫瘍、尖圭コンジローマといったHPV疾患を幅広く予防します。

MSDニュースリリース
http://www.msd.co.jp/newsroom/msd-archive/2011/Pages/product_news_0701-2.aspx

●PECO

P:12,167 women between the ages of 15 and 26 years
E:three doses of either HPV-6/11/16/18 vaccine, administered at day 1, month 2, and month 6
C:placebo
O:The primary composite end point was cervical intraepithelial neoplasia grade 2 or 3, adenocarcinoma in situ, or cervical cancer related to HPV-16 or HPV-18.

 15~26歳の女性に対して、4価の子宮頚癌ワクチンを行うと、プラセボと比較して、HPV16または18に関連するCIN2、3、AIS、子宮頚癌が減るかどうかを検討した研究であることが分かる。

●妥当か

 妥当性については、以下のような記載があり、プライマリエンドポイントの評価はITT解析を前提にしていない。ただ、ITT解析も行われているのでそれと比較しながら読んでいくことにする。

  • randomized, double-blind
  • The primary analysis was performed for a per-protocol susceptible population that included 5305 women in the vaccine group and 5260 in the placebo group who had no virologic evidence of infection with HPV-16 or HPV-18 through 1 month after the third dose (month 7).→all subjects who had negative results on polymerase-chain-reaction (PCR) and serologic assays to the relevant type of HPV at enrollment.
  • Subjects were followed for an average of 3 years after receiving the first dose of vaccine or placebo.

●結果

 プライマリエンドポイントをPPSで解析すると98%の効果があった。ただ、必ずしも目の前の患者がウイルス学的に感染していないと言えないのが現実なので、これはあまりにも実際の臨床とはかけ離れた数字だ。

 ITT解析すると、その効果は44%と示されている。さらに、HPV16、18と関連する病変に限定しなければその効果は17%としている。

Vaccine efficacy for the prevention of the primary composite end point was 98% (95.89% confidence interval [CI], 86 to 100) in the per-protocol susceptible population and 44% (95% CI, 26 to 58) in an intention-to-treat population of all women who had undergone randomization (those with or without previous infection). The estimated vaccine efficacy against all high-grade cervical lesions, regardless of causal HPV type, in this intention-to-treat population was 17% (95% CI, 1 to 31).

 予防接種をしたからといって検診が不要と思わないことが大切だと思う。早期発見のためには検診も重要だ。効果98%という数字が独り歩きすることは危険だ。子宮癌検診についてはいろいろな意見があるかもしれないが、それなりに推奨度は高いと思う。USPSTFでも性的活動期であれば推奨度はAだ。

 いろいろな数字が飛び交うけれど、冷静に取り扱うことが大事と思う。目先の経済活動に巻き込まれることだけは勘弁してもらいたい。そんなに簡単なことではないけれど。

参考文献

  1. FUTURE II Study Group. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent high-grade cervical lesions. N Engl J Med. 2007 May 10;356(19):1915-27.

過去の勉強ノート3

子宮頚癌ワクチン(ガーダシル)の効果:FUTURE I Study(120214)

 FUTURE II Studyに引き続き、FUTURE I Studyを読んでみる。

●PECO

P:5455 women between the ages of 16 and 24 years
E:2723 women to receive vaccine at day 1, month 2, and month 6.
C:2732 to receive placebo
O:The coprimary composite end points were the incidence of genital warts, vulvar or vaginal intraepithelial neoplasia, or cancer and the incidence of cervical intraepithelial neoplasia, adenocarcinoma in situ, or cancer associated with HPV type 6, 11, 16, or 18.

 16-24歳の女性に対して、4価の子宮頚癌ワクチンを投与すると、プラセボを投与した場合と比較して、①陰部疣贅、外陰部や腟の上皮内腫瘍や癌と、②子宮頚部上皮内腫瘍、上皮内腺癌、HPV6型、11型、16型、18型に関連した癌が減るかどうかを検討した研究であることが分かる。

●妥当か

 以下のようなキーワードがあり、PPSでの解析がプライマリエンドポイントの解析として設定されている。ITT解析もされている。

  • randomized, placebo-controlled, double-blind trial
  • Data for the primary analysis were collected for a per-protocol susceptible population of women who had no virologic evidence of HPV type 6, 11, 16, or 18 through 1 month after administration of the third dose.
  • The women were followed for an average of 3 years after administration of the first dose.

●結果

 ウイルス学的に感染のエビデンスがない集団(PPS)で、ワクチンの型に対応した疾患に対しては100%の効果を認めたとのことだが、ITT解析を行うと効果は減少し(73%)、さらに、対象とするウイルスの型を限定しないと効果はさらに減少している(34%)。

In the per-protocol population, those followed for vulvar, vaginal, or perianal disease included 2261 women (83%) in the vaccine group and 2279 (83%) in the placebo group. Those followed for cervical disease included 2241 women (82%) in the vaccine group and 2258 (83%) in the placebo group. Vaccine efficacy was 100% for each of the coprimary end points. In an intention-to-treat analysis, including those with prevalent infection or disease caused by vaccine-type and non-vaccine-type HPV, vaccination reduced the rate of any vulvar or vaginal perianal lesions regardless of the causal HPV type by 34% (95% confidence interval [CI], 15 to 49), and the rate of cervical lesions regardless of the causal HPV type by 20% (95% CI, 8 to 31).

 繰り返しになるかもしれないが、ワクチンに効果が最も期待できるのは感染の既往のない患者である。公費で介入するなら性行為を行う以前の年代の介入が効果は高いと思う。しかし、既往が無い患者であっても全ての型の病変を予防できるわけではない。ワクチン型と関連しない疾患を含めると効果は落ちる。既往のある患者を含めるとさらに効果は落ちてしまう。万能な予防法では無い。リスクを管理することや、検診を受けることの重要性が低くなるわけではないと思う。

参考文献

  1. Garland SM, Hernandez-Avila M, Wheeler CM, Perez G, Harper DM, Leodolter S, Tang GW, Ferris DG, Steben M, Bryan J, Taddeo FJ, Railkar R, Esser MT, Sings HL, Nelson M, Boslego J, Sattler C, Barr E, Koutsky LA; Females United to Unilaterally Reduce Endo/Ectocervical Disease (FUTURE) I Investigators. Quadrivalent vaccine against human papillomavirus to prevent anogenital diseases. N Engl J Med. 2007 May 10;356(19):1928-43. PubMed PMID: 17494926.

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