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アトピー性皮膚炎に対するPDE4阻害薬の効果

はじめに

 モイゼルト®軟膏(ジファミラスト軟膏)という軟膏がある。その効果について調べてみることにした。まずは外用治療の基本的な部分を復習してみる(主に小児に関連する論文から)。

PDE4阻害薬の効果のまとめ

  • アトピー性皮膚炎治療薬のファーストラインはステロイド外用薬であるが、近年様々な新薬が登場している。1)
  • 日本のアトピー性皮膚炎治療において、ジファミラスト軟膏は、ステロイド外用剤、タクロリムス軟膏、デルゴシチニブ軟膏に続く第4の新たな治療薬としての位置を占めるようになっている。2) →デルゴシチニブ軟膏はコレクチム®軟膏のこと。
  • 小児の臨床ではⅡ群からⅣ群の強さをカバーする処方であれば、ほとんどの患者に対応が可能である。診療ガイドラインに記載されているように、重度の皮疹にはⅡ群、中等度の皮疹にはⅢ群、軽度の皮疹にはⅣ群を基本とすれば、小児の患者のほとんどは寛解導入が可能である。1)
ランク濃度薬剤名
ストロンゲスト (Ⅰ群)0.05%クロベタゾールプロピオン酸エステル (デルモベート®)
0.05%ジフロラゾン酢酸エステル (ダイアコート®)
ベリーストロング (Ⅱ群)0.10%モメタゾンフランカルボン酸エステル (フルメタ®)
0.05%ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル (アンテベート®)
0.05%フルオシノニド(トプシム®)
0.06%ベタメタゾンジプロピオン酸エステル (リンデロン DP®)
0.05%ジフルプレドナート (マイザー®)
0.10%アムシノニド(ビスダーム®)
0.10%ジフルコルトロン吉草酸エステル (テクスメテン®、ネリゾナ®)
0.10%酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン (パンデル®)
ストロング (Ⅲ群)0.30%デプロドンプロピオン酸エステル (エクラー®)
0.10%デキサメタゾンプロピオン酸エステル (メサデルム®)
0.12%デキサメタゾン吉草酸エステル (ボアラ®、ザルックス®)
0.12%ベタメタゾン吉草酸エステル (ベトネベート®、リンデロンV®)
0.03%フルオシノロンアセトニド (フルコート®)
ミディアム (Ⅳ群)0.30%プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル (リドメックス®)
0.10%トリアムシノロンアセトニド (レダコート®)
0.10%アルクロメタゾンプロピオン酸エステル (アルメタ®)
0.05%クロベタゾン酪酸エステル (キンダベート®)
0.10%ヒドロコルチゾン酪酸エステル (ロコイド®)
0.10%デキサメタゾン (グリメサゾン、オイラゾン®)
ウィーク (V群)0.50%プレドニゾロン (プレドニゾロン®)
(文献3より引用 一部改変)
  • 実臨床において、外来診療の対象となるレベルの小児患者の場合、顔にはⅣ群、体幹・四肢にはⅢ群でほとんどの患者は寛解導入が可能である。1)
  • (タクロリムス軟膏は)治験の成績からステロイド外用薬のⅢ群からⅣ群程度の強さに匹敵するといわれているが、実臨床ではⅣ群ステロイド相当として扱ったほうがよい。1)
  • (タクロリムス軟膏は)バリア機能が低下した状態では経皮吸収されやすいが、皮膚バリアが正常化してくると吸収されにくくなるため、皮膚の厚い部位では炎症を完全に抑えることができない場合がある。逆にいうと(タクロリムス軟膏は)皮膚が薄く吸収率が高い顔の治療には向いている。しかし、皮膚状態が悪いと刺激感が生じる患者もいるため、ステロイド外用薬で改善させてから寛解維持に使用するのが無難である。1)
  • ステロイド外用薬はAD の第一選択薬として使用されているが、皮膚萎縮、酒さ、痤瘡などの副作用を伴うことがある。また、カルシニューリン阻害薬も第一線の治療薬として用いられるが、使用初期に灼熱感を伴うことがあることから、使用をためらう場合が少なくない。2)
  • (デルゴシチニブ軟膏は)臨床的な実感としての抗炎症力はタクロリムスより若干低めに感じるが、より刺激感が少ないこと、分子量が310.35と小さいことから、ある程度皮疹が改善したあとも、長期連用によるさらなる皮疹の改善効果が期待できる。1)
  • (デルゴシチニブ軟膏は)ステロイド外用薬のような皮膚の菲薄化も生じないことから、皮疹の程度が軽く、かつ分布が身体の一部(30%以下)に限定される軽症・中等症患者の治療には寛解導入の段階から使用することも可能である。1)
  • デルゴシチニブは刺激感が少ないが分子量が小さく、過剰に塗布するなどして経皮吸収が増加すると、全身性の副作用を生じる可能性があるとされる。そのため、1 回当たりの塗布量は5g まで、塗布面積は体表面積の30% までといった制限が設けられている。2)
  • (ジファミラスト軟膏は)臨床的な実感としての抗炎症力はタクロリムスよりも若干劣るように感じるが、分子量が446.44と500ダルトンルールを超えないため、皮疹がある程度改善したあとも経皮吸収されることから、長期連用によるsubclinicalな炎症を抑制する効果が期待できる。1)
  • (ジファミラスト軟膏は)感染症に関連する副作用が少なく、1回塗布量に制限がないことから、保湿剤のように全身塗布が可能である点が特徴である。1)
  • ジファミラストは0.3% 製剤と1% 製剤とがあり、成人には1% 製剤を、小児には0.3% 製剤を1日2回、患部に適量塗布するとされ、小児では症状に応じて1%製剤を使用することもできる。皮疹の面積0.1m2あたり1g を目安とすることとされており、年齢ごとの体表面積を考慮すると1 回の塗布量や塗布面積の制限はほぼないと考えられる。2)

個別の論文

PECO

 まずは小児のアトピー性皮膚炎に対するジファミラストの効果を検討した論文(文献4)から。

P:Patients aged 2-14 years with an Investigator Global Assessment (IGA) score of 2 or 3
E:difamilast 0·3% (n = 83), difamilast 1% (n = 85)
C:vehicle (n = 83) ointment twice daily for 4 weeks.
O:The primary endpoint was the percentage of patients with an IGA score of 0 or 1 with improvement by at least two grades at week 4. 

 2~14歳の軽症から中等症(IGAスコア2~3点)のアトピー性皮膚炎の患者に対して、ジファミラスト軟膏を塗布すると、プラセボ軟膏と比較して、4週間後に少なくともIGAスコアが2点改善し、皮疹が消失、またはほぼ消失する(IGAスコア0~1点)の患者が増加するかどうかを検討した研究。

妥当か

 抄録にrandomized, double-blindの記載がある。本文のStatistical analysisの部分にThe statistical analyses included all patients who received the study medication at least once. と記載されているし、どうやら解析された患者は全例なので、ITT解析されていると考えていい。

結果

The success rates in IGA score at week 4 were 44·6%, 47·1% and 18·1% in the difamilast 0·3%, difamilast 1% and vehicle groups, respectively. Both difamilast groups demonstrated significantly higher success rates in IGA score compared with vehicle at week 4 [difamilast 0·3% (P < 0·001); difamilast 1% (P < 0·001)]. 

 ジファミラスト群で改善したのは44.6%(0.3%の群)、または47.1%(1%の群)で、プラセボ軟膏群では18.1%であり、ジファミラスト群で有意に改善した患者が多かった。

 1%のジファミラストとプラセボ軟膏を比較すると、NNTは100/(47.1-18.1)=3.4 4人と計算できる。

PECO

 次に、成人のアトピー性皮膚炎に対するジファミラストの効果を検討した論文(文献5)を読んでみる。

P:patients aged 15-70 years with an investigator global assessment score of 2 or 3
E:topical difamilast ointment 1% (n = 182)
C:vehicle (n = 182) twice daily for 4 weeks
O:The success rate in investigator global assessment score at week 4 (primary endpoint)-the percentage of patients achieving an investigator global assessment score of 0 or 1 with ≥2-grade improvement-

 15~70歳の軽症から中等症(IGAスコア2~3点)のアトピー性皮膚炎の患者に対して、ジファミラスト軟膏を塗布すると、プラセボ軟膏と比較して、4週間後に少なくともIGAスコアが2点改善し、皮疹が消失、またはほぼ消失する(IGAスコア0~1点)の患者が増加するかどうかを検討した研究。

妥当か

 抄録中にrandomized, double-blind trialの記載がある。本文のStatisticsにThe statistical analysis included all patients who received the study medication at least once and was performed on the basis of the intention-to-treat principle. の記載がある。実際に割付けを受けた全例が解析に含まれている。

結果

The success rate in investigator global assessment score at week 4 (primary endpoint)-the percentage of patients achieving an investigator global assessment score of 0 or 1 with ≥2-grade improvement-was significantly higher with 1% difamilast than with the vehicle (38.46% vs 12.64%, respectively, P < .0001).

 ジファミラスト群で改善したのは38.46%で、プラセボ軟膏群では12.64%であり、ジファミラスト群で有意に改善した患者が多かった。

 ジファミラストとプラセボ軟膏を比較すると、NNTは100/(38.46-12.64)=3.9 4人と計算できる。

メタ解析

 文献6は上記の論文は含まれていない。別のPDE4阻害薬の効果を検討したRCTのメタ解析。

Overall, compared with the topical vehicle control, topical application of PDE4 inhibitors was associated with a significant decrease in target lesion score (SMD −0.40; 95% CI, −0.61 to −0.18; P < .001) and a higher response rate in investigators’ assessment of clear or almost clear skin (relative risk, 1.50; 95% CI, 1.33-1.70; P < .001).

 病変のスコアのSMDが0.4減少して、皮膚病変の消失またはほぼ消失の可能性が1.5倍になる。まあ、悪くない結果に見える。

薬価

モイゼルト軟膏1%   150.4円/g
マイザー軟膏0.05%   12円/g
リンデロンV軟膏0.12%  18.6円/g
プロトピック軟膏0.1%  66円/g

 価格の差はかなりあるので、ステロイドなど、他剤を含めてうまく利用するのがよさそうだ。

 基本はステロイド外用薬なのだと思う。プライマリケア医は、増悪因子をコントロールしたり、皮膚の保護を行うことはもちろんだが、外用薬については、、まずステロイドを効果的に使うことを考えた方がいい。

参考文献

  1. 大矢幸弘. アトピー性皮膚炎 2. 局所療法, 全身療法の進歩. 小児科診療 87(suppl-1): 23-30, 2024.
  2. 堀向健太. PDE4阻害薬 (ジファミラスト軟膏). 日本小児アレルギー学会誌 37(5): 505-512, 2023.
  3. 佐伯秀久, et al. アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2021. 日本皮膚科学会雑誌, 2021, 131.13: 2691-2777.
  4. Saeki H, Baba N, Ito K, Yokota D, Tsubouchi H. Difamilast, a selective phosphodiesterase 4 inhibitor, ointment in paediatric patients with atopic dermatitis: a phase III randomized double-blind, vehicle-controlled trial. Br J Dermatol. 2022 Jan;186(1):40-49. doi: 10.1111/bjd.20655. Epub 2021 Nov 1. PMID: 34289086; PMCID: PMC9298328.
  5. Saeki H, Ito K, Yokota D, Tsubouchi H. Difamilast ointment in adult patients with atopic dermatitis: A phase 3 randomized, double-blind, vehicle-controlled trial. J Am Acad Dermatol. 2022 Mar;86(3):607-614. doi: 10.1016/j.jaad.2021.10.027. Epub 2021 Oct 25. PMID: 34710557.
  6. Yang H, Wang J, Zhang X, Zhang Y, Qin ZL, Wang H, Luo XY. Application of Topical Phosphodiesterase 4 Inhibitors in Mild to Moderate Atopic Dermatitis: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Dermatol. 2019 May 1;155(5):585-593. doi: 10.1001/jamadermatol.2019.0008. Erratum in: JAMA Dermatol. 2019 May 22;: PMID: 30916723; PMCID: PMC6507295.

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